新型コロナウイルスの影響に加え、5Gの普及でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が加速するなか、日本ではまだまだ課題の多さも指摘されている。例えば、既存システムの負債や経営陣・組織・人材の問題などだ。なかでも、老朽化した既存システムからの移行に戸惑う企業は少なくない。
実際に、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の進展に対する意識調査」(平成29年)によれば、およそ8割の企業が老朽システムを使っているといい、それを「DXの足かせ」と感じている企業はおよそ7割にも上っている。そのなかでも老朽システムが多く残されていたのが、「商社・流通」業界だ。「ほとんどが老朽システムである」という回答においては、33.3%で最多となった。
「流通のなかでも、特に物流においては“デジタル化が進まない領域”と見られてきました。システムが老朽化しているどころか、そもそもシステムというシステムはなく、電話やFAXで受けた注文をエクセルシートで管理しているような、アナログな手法がいまだに残されている業界です。皆さん、非効率なことはわかっている。でも、エッセンシャルワーカーである物流の担い手は現場に出ている人が多いうえに、ひとつの仕事に対して1社では完結しない仕事が多い業界です。共通のシステムをもって管理するという“業務の標準化”がとても難しい業界でもあったのです」
そう話すのは、ラクスルが提供する物流プラットフォーム「ハコベル」の事業本部ソリューション推進部部長、鈴木裕之だ。鈴木が牽引する同事業部は、荷物を送りたい企業・個人と空き時間に仕事を受注したいドライバーをマッチングする軽貨物向けのサービス「ハコベルカーゴ」、一般貨物向けのマッチングと配車管理を行う「ハコベルコネクト」を提供する。特に後者のサービスは、「アナログな業務体質」が課題として挙げられてきた物流業界のDX推進に貢献してきた。
「印刷にしても物流にしても、『デジタル化を受け入れない』業界だと思っていました。運送会社にはアナログな業務体質が残っている、現場に出ている人も多く高齢化も進んでいるから、複雑なシステムは面倒臭がるでしょ、と思っていたんです。でも、これらはすべて思い込みでした。皆さん非効率なシステムに対する問題意識はもっていたけれど、関連会社を巻き込んで改革しなければならないためにハードルが高くなってしまっていただけだったんです。実際に、荷主さんと共に倉庫関係者、運送関係者に説明会を行ってきたなかで、『使えないから嫌です』と導入を断ってきた方はひとりもいません。むしろ、もっとこういう機能がほしいといった意見も頂戴しています。DXを阻んでいたいちばんの壁は“思い込み”だったのです」(同)