キャリア・教育

2020.11.01 18:00

自著9冊、うち8作が映像化。超売れっ子原作者が明かす、人を巻き込む「逆算」の法則


小説を書くときは、映画化を想定して書く、という鬼塚氏は、「さらに、その映像が『越えるべき』具体的映像作品を想定するのがいいと思う」という。

鬼塚氏は、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した香港・中国合作映画『さらば、わが愛/覇王別姫』を観て衝撃を受け、「生きている間にこの作品を超える物語を書きたい」と思ったという。


Getty Images

『さらば、わが愛/覇王別姫』は、1920年代の中国・北京を舞台に、京劇俳優養成所の俳優、石頭と小豆子の、性別を超えた情念の交わし合いと運命をテーマに据えた作品である。

「しかし思ったところで簡単には書けない。ふさわしい『題材』に巡り合わなければ。先にも言ったように、完全な作り話を書いても、人の心を動かす物語にはなりえません。そういう思いで、題材と巡り合うまでじっと待っていました。そして、偶然にも訪れたのが、池坊の歴史を知る機会でした」

鬼塚氏はそこで、戦国時代の華道、茶道の世界を背景に、池坊専好と千利休の「男と男の交情」を描きえぐることに決める。時代も舞台も異なるが、共通のテーマで、『さらば、わが愛/覇王別姫』に近づき、超えることに挑んだのだ。

結果、出版された小説『花戦さ』は映画化され、日本アカデミー賞で、作品賞を含む7つの優秀賞と1つの最優秀賞を受賞する。

主役の名前はとりあえず「松岡修造」


物語を書く際に気をつけなくてはいけないのが、「キャラクター設定」。そして、「キャラクターの一貫性」だという。

「小説では『ありえない話に現実味を持たせる』ことが肝心なので、キャラクターがぶれては読者が白けます。でも、注意せずに書いていると、登場人物は、書き手の都合に合わせて話したり行動してしまう。そうなると、キャラクターに統一性がなくなり、現実味がなくなってきます。なので私は、登場人物にはすべて、実在する人物の名前を与えて書き始めます。家族、友達、仕事で出会った人たち、芸能人などです。

たとえば、熱いイケメンには『松岡修造』という名前をつける。ずっと彼にしゃべらせ、行動させることで、キャラのブレを防ぎます。原稿が出来上がったら『松岡修造』をWORDファイル上で検索し、『本番の名前』ですべて置換すればいいのです」

よく使う名前は、松岡修造のほか、笑福亭鶴瓶(俯瞰的な視点を持つ人物を描くとき)、吉岡秀隆(心の深い人物を描くとき)、薬師丸ひろ子(大人なのにかわいい女性を描くとき)、伊藤英明(男の中の男を描くとき)など。さらに、「高校時代の部活のキャプテンのK君や、中学時代の、色っぽかった音楽のY先生も時々登場します(笑)」という。

ちなみに映画「Little DJ」の執筆時、主人公の「すべて置換」前の名前は「神木隆之介」だったが、なんと実際の映画の主役も本人が演じた。
次ページ > カギを握るのはプロデューサー

構成=石井 節子

ForbesBrandVoice

人気記事