自著9冊、うち8作が映像化。超売れっ子原作者が明かす、人を巻き込む「逆算」の法則

映画『Little DJ』から(c)2007 Little DJ film partners


本作品は刊行後、週刊文春の書評ページ「今週の図書館」に取り上げられ、朝日新聞の天声人語でも2度、言及される。すぐにNHKなどからテレビ化の話が舞い込むが、結局、フジテレビによって『北の国から』のスタッフで映像化され、同局の「創立45周年記念ドラマ」として放映、文化庁芸術祭優秀作品賞に選ばれた。ちなみに小学館「ビッグコミックス」で漫画連載もされ、単行本も『天上の弦』というタイトルで13巻まで刊行される。まさにマルチメディア展開だ。

2作目の『Little DJ』も、実話を元にした作品だ。

「日本女医会会長の山崎倫子先生とお話をしている時、山崎先生が『私の病院では少年がお昼時になったら放送室から全病棟にお話をして、それから音楽をかけるのよ』とおっしゃって。とたんに妄想が頭の中をめぐってできた物語なんです」

結果、『Little DJ』は20万部近く売れ、映画化がすぐに決まる。

「物語を書く際に重要なことは、大団円のクライマックスが必要だ、ということ。ここでいうクライマックスとは決して『派手なシーン』の意味ではなく、感情が大きく爆発するシーンということ。たとえば「花戦さ』では前田利家邸でのシーン、『Little DJ』では手紙を読むシーン、『カルテット!』では家族そろって舞台に立って演奏するシーン、『恋文讃歌』では、夫の書いた暗号のラブレターを読み解くシーンです」


『花戦さ』鬼塚 忠(KADOKAWA/角川文庫)表紙 注:現在、書籍に映画の帯は巻かれていない

「弦」に載せた言葉が感情を動かす


鬼塚氏は、「人が感動するのは物語の筋だけではない」という。「人の心を本当に動かすのは『セリフ』だと思います。『感動する状況』を作って、そこで登場人物に心のうちを語らせられることが肝心です」。

さらに言うと、映画化する場合、言葉だけでは足りず、「音楽に載る言葉」が必要だというのだ。

「しかもこの場合の音楽は、『弦』の音です。つまり、バイオリンかチェロの音色に言葉を載せると、人の感情は動きやすくなります」


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「これを悟ったのが、劇伴音楽の入っていない、ラッシュと言われる映像を見たときです。まったく感動しなかったんです。それで映画公開に大きな不安を持っていたのですが、弦楽器を使った音楽の入った完成作品を見ると、感動は10倍に増幅されて、驚きました」

『花戦さ』映画化の音楽は久石譲氏が担当だった。鬼塚氏はプロデューサーに、「最後のクライマックスでの劇伴音楽はバイオリンかチェロを使ってほしい」と言ったという。

「もちろん彼から返ってきたのは『天下の久石譲さんにそんなことを進言できるわけない』という返事。しかし映画が完成してみると、野村萬斎演じる池坊専好と市川猿之助演じる豊臣秀吉との長台詞のクライマックスには、すばらしい弦楽器の音楽が使われていて、しっかりと情感を高めていました」
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構成=石井 節子

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