実は鬼塚氏は、自身でも9冊の物語を世に出し、うち8作が映像化(うち1作は未公開)されている、恐るべき「映画原作クリエーター」だ。公開された映画のなかでも『花戦さ』は、野村萬斎、市川猿之助、佐藤浩市、中井貴一、佐々木蔵之介が出演し、第41回日本アカデミー賞で優秀賞7部門、最優秀賞1部門を受賞した。
また、聞き書きした『海峡を渡るバイオリン』は、『北の国から』のチームが制作を担当、草薙剛、菅野美穂ら出演で「フジテレビ45周年記念ドラマ」として放映され、文化庁芸術祭優秀賞を受賞。他にも、神木隆之介主演、広末涼子共演の『Little DJ』、高杉真宙出演の『カルテット!』、青柳翔、田中圭ら出演の『サンゴレンジャー』などの映画化作品がある。
鬼塚氏の小説、すなわち独創的アイデアは、多くの人が関わり、大きな予算もつく「映像化」というプロジェクトを動かしてきた。そんな鬼塚氏に、映像化されやすい物語の書き方について、また、どうすれば自分のアイデアが多くの人に引き継がれ、大きく羽ばたくのかについて聞いた。
物語は必ず「事実をネタにして書く」
映画化以前に、小説は、まず出版され、世に出なければならない。しかし、小説を出版社から出版すること自体、かなり難しいことのはずだ。
鬼塚氏は、「実は出版レベルに達する質があっても出版されない作品は数多い」という。それは、「読者が買う理由がない」からだと。
「ではどうすればいいのかというと、読者が読みたいと思う『強い物語』を書くことです。しかし『すべて作り話』だと、どれだけ話をうまく作り上げても物語に力がこもらない」
「強い物語」の秘訣、それは、事実を元にした物語、「ファクション(事実と虚構とを織り交ぜた作品。ノンフィクションとフィクションの中間)」という。「なによりも、プロデューサーの目にも留まりやすい。もちろん細部はフィクションでもいい、むしろ脚色は必要なのですが、かといって脚色も度が過ぎれば、物語の力が弱まります」。
たとえば鬼塚氏の『海峡を渡るバイオリン』は、戦後、差別に耐えながら生きる在日韓国人のバイオリン職人について聞き書きして書かれた。