次なる「神山の奇跡」は「食」で起こる? キーワードは地産地「食」

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また、過疎地では多くの高校が廃校の危機に立たされているが、神山町にも小さな農業高校がある。2020年には廃校になると言われていたこの高校が、昨年、学科改編された。

「地域創生類」で入学した生徒が2年次からは「環境デザインコース」「食農プロデュースコース」どちらかを選択して学ぶことになる。特に「食農プロデュースコース」における学びは、フードハブ・プロジェクトの活動とも親和性が高く、樋口さん(神山校社会人講師でもある)を中心に、パン職人や料理長らがゲストとして授業をしたり、農業長が小麦の栽培や収穫時にサポートしたりしながら、次世代に「つなぐ」活動を進めているところだ。

学科改編に伴い、県外生徒向けの寮も完備され、県外から入学した生徒が町内で暮らしながら通っている。

大南さんたちがそんな高い志を本気で掲げるのは、アートも、ITも、食も、日本だけでなく世界から、一流(orホンモノ)が神山に集まり、人々の身近にあるからだと思う。

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作り手へのリスペクトが味を洗練させる


驚いたのは、フードハブが運営する食堂「かま屋」で今、料理をディレクションしているのは、アメリカで最も予約が取れないレストランとして有名な、カリフォルニアのオーガニックレストラン「Chez Panisse」の元シェフ、ジェローム・ワーグさんなのだ。

「Chez Panisse」の創始者であるアリス・ウォータースは、「Local, Seasonal, Organic」を提唱し、まさに「地産地食」の先がけとして、全米の食文化に大きな影響を与えた。彼女の元で20年以上働いてきたジェロームさんは、「お皿の上のしごとは、農家が半分、料理人が半分。この土地にある季節のものを直前に料理し、食材の力を可能な限り引き出す。すべては食材からだ」と語る。

世界のトップシェフが、Farm to Table=農場から「直接」食卓までが実現できる神山の農業に、地元の人々が気づかなかった希少な高価値を見出しているのだ。

そして、新たな商品を試作しながら販売する「テストキッチン」を立ち上げたのは、食のライフスタイルショップとして人気の「DEAN & DELUCA」で商品開発に携わっていた細井恵子さんだ。フレンチレストランで働いた経験もある細井さんがつくる料理もまた絶品だ。私たちは、ディナーには細井さんの愛情たっぷりのお料理を、ランチにはジェロームさんのつくる定食をいただいた。

細井さんのディナーは、すももを使ったサラダをはじめ、地元の旬の素材だけをふんだんに使ったシンプルなお料理。ジェロームさんのランチはとても洗練されていて、定食だけどまるで一流レストランのランチを食べているようだった。二人のつくる品はどれも、作り手をリスペクトしている人だからこそ引き出せる、素材の力強さを感じずにはいられないものばかりだった。

神山の地産地食は、なんてお洒落で、美味しくて、かっこいいんだろう。

食は身体をつくり、人をつくり、心をつなげる。小さな町の挑戦は、コロナ禍によって、あらためて自分を内省するきっかけを得た私たちに、こんな問いを気づかせてくれる。

今、食べること、そこに暮らすこと、生きることに、あなたは満たされていますか。それはあなたのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)につながっていますか。

連載:それ、「食」で解決できます!
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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