次なる「神山の奇跡」は「食」で起こる? キーワードは地産地「食」

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「食」「IT」「アート」── 一流が神山に集まる理由


この人の流れは、「食」にも新しい潮流を生んでいる。移住者が開業したパン屋やビストロなどが、無農薬、無化学肥料で栽培された小麦や野菜、果物、地元の食材を使ってサービスを提供し、それを地元の人々が消費するという地域内循環が生まれたのだ。

これを「地産地食」(Farm Local, Eat Local)と呼び、町の中に小さな食の循環システムをつくっていくという試みとして、東京から移住した真鍋太一さんが中心となり立ち上がったフードハブ・プロジェクトが存在する。

アメリカの農務省が推奨しているフードハブ(Food Hub)とは、大量生産・大量流通・大量消費とは違い、生産者たちの顔が見える地元の食品を積極的に集約し、流通させ、マーケティングすることで、消費者へとつないでいくビジネス、あるいは組織のことを指す。

日本各地で農業者の高齢化、後継者不足による耕作放棄地の増加などが問題になっているが、この神山も例外ではない。農業従事者の平均年齢は71歳だ。特に神山のような中山間地域(平野の外縁部から山間地にかけての地域)は、農地の大規模化・集約化が難しく、多品目を少量生産せざるを得ないという。

そこで神山のフードハブが、顔が見える関係で、少量生産と少量消費をつないでいく。さらに、農業の新たな担い手を育成し、「地域で育て、地域で食べる」場所として、地元の食材を使った食堂・パン・食品を販売する場所を運営するほか、食育の機能も担う。

私を神山町に誘ってくれた荒井さんも、このフードハブにジョインし、新たに面白い化学反応を起こしていくことになりそうだ。お邪魔した2日間、町役場が主催するセミナーや、町で働くいろいろな方にお話を聞くなかで、私の心にいちばん響いたのは、町の中で「地産地食」という意識を循環させる取り組みだった。

わかりやすくいうと、地元の保育園から高校まで、神山の農業を次の世代に「つなぐ」ため、「地域で育てて、地域で食べる」活動をともに進めていく食育活動だ。「つなぐ」ことは、「地産地食」の循環の中で、「育てる」「つくる」「食べる」の基盤になっている重要な要素になっている。

この「つなぐ」活動を担う樋口明日香さんは、食育ではなく「食農」という言葉を使うことが多いという。

「食農教育とは食教育と農業体験を一体化させた学びのことです。座学に加えて、子どもが農業体験を通して全身で感じたことは、根っこや土台になると思うんです。それらが、地域の子どもたちの共通体験の一つとして持てることは、とてもいいなぁと」

一緒にタネから育てて、調理して食べる。地域の農家や食にまつわる生産者と、一緒に手を動かして学んでいく。

神奈川県の小学校で教師をしていた樋口さんは、「先生方と一緒にその学年のカリキュラムに合った体験活動を実施することで、より広い範囲の子どもたちに行き渡る良さを感じている」と語る。
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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