──この活動はパンデミックの影響がきっかけだったのでしょうか?
いえ、今回の取り組みは新型コロナウイルスが広がる前の2019年の時点より考えていました。デジタル化の波とユーザー体験の重要性が高まるにつれ、ヤマハとしてこれまでの「作って売る」というビジネスモデルだけではなく、よりファンと一緒に取り組みが行えるチャンネルを模索していました。
そして、主に海外スタートアップの事例なども参考にしながら、社内チームとビートラックスさんと共に数カ月間に渡って、コンセプト作り、プロトタイプ作りなどを通じて、長期的なモデルを作成していきました。それが「ブランドファンディング」というコンセプトとなりました。その第一弾として、去年の年末ごろより国内クラウドファンディングを始める準備をしていたのですが、パンデミックの影響で少しスタートが遅れた形になっていました。
──アメリカではパンデミックの影響でアウトドアに注目が集まっていますが、その影響は?
はい。日本でも屋内での活動に対して懸念が残っていますが、アメリカだとバーに集まったり、パーティーするなどの活動に制限がかかっています。その一方、バイクでツーリングに行ったり、ボートで釣りに行ったりなどの外遊びに注目が集まっています。
一人で家にこもっているとストレスが溜まり、不健康になってしまいますし、現代では遊ぶことが人生にとって不可欠な要素になってきていると思います。今までは一つの趣味的な活動だと思われてきた事柄が、実は人生にとって重要な役割を果たしていることに世の中が気づき始めています。
価値の多様性を認めていくこと
──モビリティーに対するヤマハの考え方は?
パンデミックのもう一つの影響が、モビリティへの意識変化です。アメリカでは、サンフランシスコなどの都心部を中心に、公共交通機関の利用が制限されたり、乗りたくないと思う人たちが増えたりしたことで、スクーターのニーズが高まっています。これは、マイクロモビリティへの注目が高まっていることだと考えられます。
これまでの人間の必需品であった「衣食住」に加え、これからは「移」の重要性が必要に高くなります。そして、予想がしにくい世の中になってきたからこそ、モビリティにもより多様性が求められる時代になってきていると感じています。
──今の時代にヤマハがユーザーに提供する一番の価値は?
そのような状況の中で、ヤマハが提供できる価値も高まっていると感じられます。我々のプロダクトは軽くて小さいものが多く、環境への負荷やユーザーの所有負荷、さらに人体への負担が少ないのが特徴です。
アウトドアブランドとしてユーザーが楽しめる商品を提供しても、それに対する負荷が高くなってしまうと気楽に楽しむことができません。また、命の危険があっても楽しめなくなるため、より少ない負荷で安心感を提供することが価値となります。言い換えると、楽しみをマキシマイズするために、道具をミニマイズさせる、ということです。
ヤマハはユーザーに豊かな生活を提供する”Life Style Brand”であると考えます。それは「日常生活のLife」であり「人生のLife」でもあります。