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SDGs時代の、世界をよくする仕事の作り方

自分のためにつくられた義足を試着して、満面の笑みを浮かべる男性

フィリピンのマニラに住むジョージ・アコギド氏は、途方に暮れていた。糖尿病が悪化し、右脚を切断したが、義足を買うお金がない。妻と2人の子どもを養う必要がありながら、定職にも就けず、自宅で引き籠る日々が続いていた。

そんな彼のもとに、知人が貴重な情報を持ってきた。聞けば、「インスタリムというスタートアップが、4万円ほどで義足をつくってくれる」というのだ。

「驚いたよ、価格が安くて。しかも3Dプリンタでつくると知って、さらに驚きが増した。それで(インスタリムに)連絡したら、たったの3日で義足が完成したんだ」(アコギド氏)

義足を手に入れてから、アコギド氏は、再びフルタイムで働き始めた。マニュアル車を運転し、いまは自転車も颯爽と乗りこなす。「誰にも依存せずに暮らすことができる。いまはとても幸せだ」と満足そうに語る。

義肢装具を必要とする人は1億人以上


インスタリムは、フィリピンで義肢装具を製作・販売するスタートアップだ。 CEOは日本人の徳島泰。3D-CADと3DプリンティングにAIを掛け合わせることで、世界で初めて3Dプリント義足の製造・開発に成功した。

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3Dプリンタで製造した義足。価格は従来品の10分の1以下だという

世界では、1億人以上の人が義肢装具を必要としているとされる。だが、実際に手に入れられるのはその10%程度で、およそ9000万人は義肢装具を購入できずにいる。

最大の理由は、価格の高さだ。最適な義足の形は人によって異なるため、一般的に国家資格を持つ義肢装具士の手作業が必要になる。そのため量産が難しく、自ずと高額になってしまうのだ。

インスタリムは、テクノロジーをフル活用することで、販売価格を1本あたり4万2200円と従来の10分の1以下に抑えることに成功。2021年度には製造原価を4000円程度にまで抑え、さらに手ごろな価格にする計画だ。

インスタリムの義足が完成するまでの流れは次のようなものだ。

まず、切断した足の患部データを3Dスキャナーで取得し、それを3D-CADに取り込んでモデリングを行う。その後、義足の製造に最適化された3Dプリンタで試作品をつくる。それを患者に試着してもらい、履き心地や歩きやすさを確認。さらに義肢装具士が微調整したものを再スキャンし、3Dプリンタで最終品を完成させる。

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3Dスキャナーで取得したデータを3D-CADに取り込み、3Dプリンタで試作品を製造する

「動けないから、自分は役立たずだと思う。そんなことを誰も言わなくて済む世界をつくる」

インスタリムCEOの徳島はこう力強く話す。しかしなぜ、徳島はフィリピンの地で、義足をつくると決めたのか。その原点は、中国で見た光景にあった。

文=瀬戸久美子

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