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SDGs時代の、世界をよくする仕事の作り方


ものづくりを極めてきた自分なら、この課題を解決できるかもしれない──。そう考えた徳島は、帰国後、慶應義塾大学大学院で研究活動をしながら、3Dプリンタを用いた義足の開発を始めた。4年かけて製造システムを構築し、2018年にインスタリムを創業。2019年6月からフィリピンで義足の販売を始めた。

実験段階で、初めて患者に義足を手渡したときのことを、徳島は鮮明に覚えているという。それは60歳を過ぎた男性だった。自宅へ迎えに行くと、男性は庭先で洗濯をしていた。膝立ちで家事をするため患部の皮は厚く、真っ黒になっていた。

数日後、完成した義足を手渡した。男性は妻に向かって「これで大工の仕事に戻れるから」と呟いた。妻は「嬉しい、嬉しい」と何度も言い、ポロポロと涙を流した。

「足を切断した人が自立した暮らしを取り戻すことは、患者の家族の人生を取り戻すことにもつながる。それを実感するたびに毎回、泣きそうになる」

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1本の義足が本人やその家族、周辺社会の暮らしを変える

ウィズコロナの時代の経済モデルを


現在、フィリピンを中心に事業を行うインスタリムだが、ウィズコロナの時代を踏まえて、国や地域にとらわれない製造体制の確立を急いでいる。

その柱は2つある。1つがAIによる自動設計だ。初診時に患部をスキャンしたデータと義肢装具士が調整した後の義足のデータとの差分をAIで解析し、義肢装具士に頼らずとも義足を設計できるシステムを構築する。

2つ目が遠隔製造だ。遠隔問診システムを使って3Dスキャンしたデータをセントラルファクトリーに送信し、義足をつくる。対象エリアを広げることで、義足を得られる人の数が増え、設備の稼働率も上がるというのが徳島の考えだ。

これらの取り組みを通じて、2022年以降、インスタリムは25億円程度の売り上げを目指している。

そして、さらなる先に徳島が見据えるのは、「適量生産・適量消費」の経済モデルだ。

「欲しい分だけつくる『マス・カスタマイゼーション』でのスタートアップの最初の成功例となって、新しい時代のあり方を示したい。それが私の、人間社会に対する責任の果たし方ではないかと思っています」

義足の「カスタム量産」を通じて、「誰1人取り残さない」世界を目指しつつ、持続可能な経済活動をも提案する。徳島が率いるインスタリムは、ニューノーマルへの転換を求める時代の旗手となるかもしれない。

連載:SDGs時代の、世界をよくする仕事の作り方
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文=瀬戸久美子

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