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SDGs時代の、世界をよくする仕事の作り方


徳島は大学入学後、すぐに父親が経営していたベンチャー企業で液晶部品の開発ノウハウを学び始めた。時はITバブル全盛期だった。「ハードウェア業界も伸びていて、成長イコール正義みたいな状況だった」と徳島は語る。

仕事の関係で、中国にある工場に出向いたときのことだった。工場から出た廃液がすぐ横の川に流れ出し、水面が真っ白になっていた。流れ着く先に目をやると、年配の農夫が川の水をすくって、白菜の畑にかけていた。その日の昼、工場の社食で白菜を使った料理が出てきた。濁った川と白菜の畑が脳裏をよぎり、徳島は箸をつけることができなかったという。

「でも、隣に座っていた中学生くらいの女工さんは黙々と食べていた。ショックでした。以来、自分の暮らしは誰かの犠牲の上に成り立っているのではないかと、ずっとひっかかっていました」

人が幸せになるものづくりがしたい。そう思い、多摩美術大学に入学して、工業デザインを学び直した。卒業後は、大手医療機器メーカーでキャリアを積んだ後、33歳で青年海外協力隊に応募。フィリピンの貿易産業省で、同国で初となるデジタルファブリケーションラボの立ち上げを手がけた。

途上国では義足不足が深刻だと知ったのは、この頃だ。最新の3Dプリンタを使ったファブラボということで、徳島のもとにはフィリピンの省庁の高官などがこぞって見学に訪れた。そのなかで、保健省の人から「これで義足をつくることができないか」と聞かれた。

「足を切ると天国への階段を登れない」


「言われてみれば、フィリピンでは、足を失った障がい者を見ることが多かった」。徳島は、その理由を探るうち、背景には糖尿病の蔓延があると気づいたという。

一般的に、フィリピンの低賃金労働者の食生活は、山盛りの米と少しの塩辛い肉や魚の干物で成り立っている。これが最も安く、簡単に腹を満たせるメニューだからだ。「こうした食生活を続ける結果、フィリピンには大勢の糖尿病患者がいるのです」と徳島は説明する。

「弊社の試算では、フィリピンに暮らす30〜40代以上の人の3分の1から4分の1が糖尿病または糖尿病予備軍です。糖尿病が悪化した結果、足が腐って切断せざるを得ない人は、マニラ近郊だけでも年間3万人以上いると推計しています」

経済的な理由から、義足を手に入れることができない。だから糖尿病で足が腐っていても、「足を切ると天国への階段を登れなくなるから、手術はしない」などと言い張る人たちに、徳島は数多く出会ってきたという。

「命をながらえたところで、義足がなければ仕事に就けず、ただの厄介者になってしまう。それなら身体中に毒が回って死んだほうがマシだという彼らの思いを知って二重に悲しかった」

文=瀬戸久美子

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