ビジネス

2020.10.20

優秀なエンジニアはどこにいる? パイオニアのDX戦略と「副業人材」がもたらすもの

パイオニアの石戸亮(右)、 overflow代表取締役CEOの鈴木裕斗(左)


効率がいいと言っても、歴史ある大企業のパイオニアが、スタートアップが運営するサービスを利用することに驚く人も多いだろう。石戸は、今回の取り組みが「単に副業・複業人材を採用するのではなく、さまざまな働き方の可能性を模索するため」と強調する。

「パイオニアが今必要としているDX人材が集まる最適なコミュニティがオファーズだったということ。現在、副業は認められていませんが、是非パイオニアで働いてほしいと思う人材に直接アプローチして、その人に合ったワークスタイルを一緒に考えていきたい。将来的には、さまざまな働き方の可能性を広げたいと考えています」(石戸)


モビリティサービスカンパニーCDOの石戸亮

実際、1社に留まらず同時に複数の企業やプロジェクトで活躍するエンジニアは増えている。複数企業のCTO(最高技術責任者)をこなし、結果を出す人材もいるそうだ。さらに、新規デジタル事業の立ち上げ時に外部のエンジニアを採用して、システムをつくってもらい、運営は正社員が引き継ぐといった有期雇用も可能になりつつあるという。

しかし、こうしたエンジニア独特の働き方や価値観は、大企業ではなかなか理解されづらい。

「僕自身が社外からCDOになって実感したことでもありますが、パイオニアを含むどの大企業も、働き方を含めた組織の形やマインドセットを変化させなければいけないという焦りは感じています。でも、既存のビジネスが大きいが故に、新しいあり方や考え方のイメージが湧きづらく、どうシフトしていけばいいか、各社試行錯誤している」(石戸)

オファーズを利用した採用活動は、こうした大企業が抱える課題を解決する糸口の一つとなり得る。オファーズには、本業の側で週に数日働く「副業先」を探す人から、将来的に正社員として働くことを見据えた職場での「お試し期間」を求める人など、働き方に対してあらゆる価値観を持つエンジニアが集まる。

そのような人材と採用活動を通じて交流することで、パイオニア側は社内の常識に囚われない新しい働き方の価値観を学ぶことができると石戸は確信する。

「最終的に採用し一緒に働く上で得られる発見はもちろん、登録されたプロフィールを読んだり、実際に面接したりするだけで、学べることは沢山あります」(石戸)

また、パイオニアのような大企業で働くことは、エンジニア側にとってもメリットが大きい。「ワクワクしない理由がない」と鈴木は断言する。

「パイオニアが保有量を誇るナビの経路データは、エンジニア側からするとまさに『宝の山』。そのデータを活用したらどんなサービスができるだろうとアイデアが溢れ出してくると思います。

また、DXの醍醐味は、利益率に直接ヒットする事業開発や業務改善ができること。ほんの数%の利益率向上といってもスタートアップと大企業だとインパクトが全然違う。だからこそ、何百億円から何千億円の改善が見られる大企業のDXは、エンジニアにとって大きなやりがいになります」(鈴木)

石戸も、今後エッジデバイスやIoTを活用したソフトウェア開発やデータ分析に携わりたいと感じるエンジニアやデータ人財が増えてくるのではないかと予想する。

「インターネットの普及により、サービス開発から顧客の声が届くまでのサイクルが比較的早い、スマホアプリやEコマース分野で活躍するエンジニアが、ここ20年ほどで急増した。その経験を生かして、デジタルの力で社会課題を解決したいというエンジニアのニーズは高まっていると感じます」(石戸)
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文=大竹初奈 写真=小田駿一 編集=松崎美和子

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