数時間後には準備が完了し、イベントが始まった。イベントコンセプト「まちのリビング」が表す通り、会場にはハンモック、安楽椅子、レコードプレーヤーとスピーカー、卓球台、コーヒースタンドなど、くつろぎを演出するアイテムが並ぶ。生バンドの演奏もあり、会場全体があたたかい空気に包まれている。
以前、似たイベントに参加した気がしていたが、米オレゴン州ポートランドのファーマーズマーケットだと気づいた。事実、水島パーキングデイの関係者に話を聞くと、ポートランドで公共空間の設計をしている人物が設計に関わっていたとのことだった。
時間が経つにつれて、各々「過ごし方」を見つけていったようだ。人工芝に座り笑顔で会話する母親と幼児。ハンモックに揺られる地元の高校生。コーヒー片手に立ち話に興じる商店主たち。そこにはコロナ禍で長いこと忘れていた日常の光景が広がっていた。
地元の商店街の歴史を紹介するパネル展示
あたりが暗くなったころ、会場の一角で、地元商店街で長く商売を営んできた女性陣によるトークイベントが始まった。隣には商店街の歴史を示すパネルが展示されている。「仲間がいたからここまで続けることができた」というコメントに、さっきまでハンモックに揺られていた高校生が熱心に聞き入っている。なんだか温かい気持ちになり「また参加したいな」と思った。
イベントで感じた「日本の商店街の底力」
かつては賑わいを見せていた水島地区。しかし現在は通りにシャッターが目立つ。パーキングデイに訪れた隣の地区の町内会長の男性は、「水島コンビナートができたころ、水島地区の街全体が盛り上がっていたが、今では飲食店が2分の1から3分の1程度に減った」と説明する。
会場入り口のサインも手作りだ
地元の人たちも当然、危機感を抱いている。そこで地元有志らが立ち上がり始まったのが、今回のイベントだ。イベントを企画したグループ「ミズシマ・パークマネジメント・ラボ」の広報・野呂家徳さん(49)は、「まちづくりの取り組みは、当事者(企画運営側)ばかりが盛り上がるというケースが多い。点ではなく面の活動とするためには、地元住民と一緒に盛り上げていくことが重要。パーキングデイはそのきっかけとしたい」とイベントの開催経緯と意義について説明する。
パーキングデイは毎年9月の第3金曜に世界各地で同日開催されている
この日は、以前の賑わいを取り戻したかのようだった。参加した高校2年の高木颯太さん(16)は、「水島地区としてはこれまでにないイベント。参加して元気をもらえた」と笑顔で語った。