騒動後、西山さんは両親とも約1カ月ぶりに面会した。
(前回の記事:獄中で自暴自棄になった彼女を諭し続けた「刑務官の言葉」)
父・輝男さんは苦虫をかみつぶしたような顔で「なんで自殺未遂なんか、したんや」と娘の行動をとがめた。「お父さんが井戸先生(井戸弁護団長)に失礼なことを言うからや」。西山さんが言うと、輝男さんは「俺は1審の時のように後悔したくないんや」と答えた。
父と娘の会話が平行線になりかけたところで、母・令子さんが割って入り、「お父さんもお母さんも、こうして来るのは普通に会いたいだけなんやから、そんなこと(自殺)したらもう会えなくなってしまうやんか。あと半年で家に帰って来れる。その日を楽しみに待っているんやから、二度と、ばかなことはせんといてよ」と涙ながらに娘を諭した。
両親にも弁護士にも告げず、再審取り下げをしようとした理由
絆の深い家族はすぐに元のさやに収まった。
ただ、このとき西山さんは再審取り下げ書を封書に入れて刑務所に発送を託していた。そのことは両親に話していない。井戸弁護士にさえ話していないまま、その重大な事態が進行中だった。後日、井戸弁護士は振り返る。
「再審の取り下げ書を自分で書いて刑務所に発送をお願いしていた、という話は、出所後に美香さんから聞かされたんです。X刑務官が預かり、止めたと聞きました。そのまま発送されていれば、そこで再審は終わっていたでしょうね。今考えても、背筋が寒くなる話です」
懲罰になる前、西山さんは、弁護団の池田良太弁護士と井戸弁護団長に手紙で「再審を止める方法教えてください」と頼んでいる。手紙を受け取った2人はすぐに返信しているが、気弱になる西山さんを励ますのみで、取り下げる方法を教えてはいない。
そのため、西山さんは自分の判断で「再審取り下げ書」を書いた。事件の内容と自分が再審請求人であることを説明した上で「再審を取り下げますので、よろしくお願い致します」と書き、署名して指印を押し、担当の刑務官に渡してあった。
この時点で、再審をやめる、という西山さんの決意は固かった。何年かかっても、証拠開示すら進まない再審の現実に絶望したことも大きい。懲罰処分を受ける前に井戸弁護士に宛てた手紙では、検察、裁判所への怒りと絶望を、こう書いている。
「こんなふうに家族をばらばらにした裁判所、検察、ゆるせない。なんでしんし(真摯)に向き合ってくれない!! 証拠開示ぐらいしてくれたらいい! まちがいがでてきても、あやまってくれたら別に何も言わない」
再審を求めても現実には1歩も前進しない。それどころか、再審を求め続ける限り、家族がバラバラになる。勢いや思い付きだけで取った行動ではない。西山さんは再審を取り下げることが、家族のためにも自分のためにも、その時点では最良の選択だと考えた。