杉田水脈議員の辞職だけでは解決しない「女性差別」の構図

杉田水脈議員の辞職を求める署名の受理を拒否した自民党の聖子幹事長代行。その言い分は (Getty Images)


杉田氏の発言は絶対あってはならない。だが、男性議員だって同じように絶対あってはならない発言をたくさんしているのに、13万以上の署名を集めるほどの抗議には発展したことがない。

アメリカでは、トランプ大統領の女性蔑視の発言や、性犯罪で起訴されている事実が公になっているにもかかわらず、彼は今も大統領として君臨できている。加害者の性別により社会の対応が違うのは明らかだ。

それこそがジェンダー問題であるということに、批判に便乗する男性も女性も気づかないのだろうか。いや、気づいていても、自分たちに対する不都合な真実が出てきては困るから、気づかないふりをしているのだろう。『82年生まれ、キム・ジヨン』の本を批判する、男尊女卑社会を温存したい男性たちのように。

杉田氏の発言にしても、彼女をスケープゴートにすれば、同じような発言を過去にしてきた人たちの言葉は都合よく忘れてもらえる。女性が女性を責めるビジュアルを際立たせて使うことで、男性たちからすれば、これは性差別ではありませんと胸を張って言えるのだ。それで利益を得るのは男性であって、女性ではない。

まるで自らの手を汚さない犯罪だ


その性差別の構造は、アメリカの人種差別の構造に似ている。歴史を紐解くと、差別の中に何層ものレイヤ―が作られてきたのがわかる。そのレイヤーとは、有色人種同士を対立させるために白人が刷り込んだ差別意識だ。そうすることで、白人たちは自分たちの差別意識を他人に代弁させ、有色人種は差別をする野蛮な人種のように見せることで、白人は善良な人種というイメージを刷り込んできた。

例えば、アメリカのゴールドラッシュ時代、中国人が仕事を求めてカリフォルニアにやってきた。その時、白人は黒人とタッグを組んで中国人を差別した。その一方、白人は状況に応じて今度はアジア人と組んで黒人やラテン系を差別した。そうやって差別の中に、別のレイヤーを作ることで人種間の関係を複雑化し、相食ませる。そうして構築された社会は、白人優位の社会となる。まるで自らの手を汚さない犯罪だ。

その影響としてアメリカ社会の例を挙げるなら、アジア系アメリカ人、またはアメリカに住むアジア人(日本人含む)の、黒人に対する差別意識はひどいものだ。まるで自分たちも白人とでも言いたげな意識の人も多く、白人が多く住む地域に住み、白人がマジョリティーの学校に子供を入れたら安全だと思っている。実際には、その子どもは少数派のアジア人であることで、いじめられるのが常だった。それでも、自らが差別の対象となってきた歴史の中で植え付けられた劣等感を克服しようという努力のもと、白人からの差別は我慢するしかなかったのだ。

もっとも、アジア系アメリカ人の新しいジェネレーションは自分たちのアイデンティティーで堂々と生きている人が多いように見受けられる。それは、親世代の自己肯定感の低さからくる反動か、それとも、以前よりアジア系のロールモデルが表に出てきた影響か。理由はいろいろあるにせよ、よい傾向だ。
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文=大藪順子

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