ビジネス

2020.10.16

診察時の聞き漏らしをAIで防止、医師との会話記録アプリ「Abridge」

右からシヴ・ラオ、サンディープ・コナム (c) Abridge

医師から「腎盂腎炎」と診断されたとしよう。その病名のおどろおどろしい響きに気をとられ、それが腎臓の感染症だと伝えられた際に、医師から受けた説明の一部を聞き流してしまうかもしれない。そんなときに、医師と交わしたやりとりを自動で文字に起こし、あとで読めるようにしてくれるものがあればどんなにありがたいか。

米ピッツバーグに本社を置くアブリッジ(Abridge)は、まさにそんなサービスを提供するスタートアップだ。同社は人工知能(AI)を活用し、患者が記録しておきたい医師とのやりとりを確実に文字として残すアプリを開発した。主に口コミを通じてすでに5万人のユーザーを集めている同社は6日、新たな資金調達ラウンドで1500万ドル(約16億円)を調達した。

アブリッジの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のシヴ・ラオ(41)は、「テクノロジーは、わたしが週に1度開いているクリニックで診ている患者よりも、ずっと多くの患者の力になることができる」と力を込める。ラオは心臓を専門とする医師でもある。

アブリッジの調査では、3分の2近くの患者が、医師と交わした話の内容の40%以上を忘れていた。それには、健康を保つために次にすべきことなど、重要な細かい説明が含まれていた。こうした問題を解決するため、アブリッジのアプリには、医師とのやりとりに含まれる重要な情報を強調して教えてくれる機能がある。

アブリッジはこのアプリのために、これまでに40万以上の医学用語を平明な言葉で定義した。もう一人の共同創業者で、最高技術責任者(CTO)を務めるサンディープ・コナムのチームは、まる2年を費やし、医学用語の理解やキーワードの抽出、患者が次にすべきことの発見などができるアルゴリズムを開発した。

「高度な治療計画から、診断外科手術、薬物療法まで、患者の健康状態について話し合った内容の細かい点を理解するのに役立つ」とラオはこのアプリを説明する。ユーザーは医師との会話の記録を、介護士や家族、ほかの医師らと共有することもできる。

今回の資金調達ラウンドを主導した米ユニオン・スクウェア・ベンチャーズのマネジングパートナー、アンディ・ワイスマンは、医療関係の起業家はたいてい医療側から物事を解決しようとするが、ラオとコナムはその逆で、消費者にとって「円滑なユーザー体験」を追求していると話す。このように、アブリッジが消費者を重視し、テクノロジーを活用して患者と医師の間の隔たりを埋めようとしている点に惹かれているという。

アブリッジは2018年に設立され、フルタイムの従業員は現在15人。今回集めた資金を用いて設計・生産サイドを拡充し、引き続き新たな機能の開発に取り組んでいく計画だ。

編集=江戸伸禎

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