日本のスタートアップ・エコシステムにとって「ポジティブな変化はそれだけではない」とRomero氏は言う。
例えば人材の流動的かつ自由な動きの活発化だ。米国では大手企業に勤めていた人物がスタートアップに転職しては大手企業に戻り、またスタートアップを立ち上げるというように“新陳代謝”が激しい。流動性の高まりは、働き方、承認プロセス、クオリティーアシュアランス、意思決定など、大企業とスタートアップ双方に対する理解度が高め、結果として両企業文化のギャップを埋めるように作用する。その人の動きを媒介にしたエコシステムの広がりが、日本でも徐々に生まれ始めているという。
「日本のスタートアップ・エコシステムがさらに発展する上で、最も大事なことを選べと問われれば、私は『ファウンダー同士の縦の繋がり』だと答えます。起業・経営・イグジットという経験を持つシニアファウンダーやメンターが、次世代のファウンダーの成長や支援する輪を広げていくこと。つまりは『Pay it Forward』の文化を深化させていくことです」
シリコンバレーでは、60年代からファウンダーが次世代のファウンダーに教え、投資するということが続けられてきたという。日本の創業者はこれまで、定年まで経営を続け子供に事業を継がせることがほとんどだったが、近年では起業家がイグジットして投資家やメンターになるというケースも増えている。まさに第一世代が生まれ始めており、過渡期にあるのが日本のスタートアップ・エコシステムの現在地だとRomero氏は言う。
では、日本のスタートアップ・エコシステムをさらに成長させるためにはどうすればよいか。Romero氏が次に選んだ活躍の舞台が、Google for Startups Japanだった。
グーグルのスタートアップ支援が目指すもの
Google for Startups Japanでは、経営陣のリーダーシップやマネージメント技術を養うための「集中プログラム」、スタッフ管理や雇用、UI/UXなど特定のテーマに絞った「スモールワークショップ」、そしてRomero氏が強調する「ファウンダーのコミュニティーを形成して繋げる活動」などを通じて、日本のスタートアップを支援している。
2021年1月からは、3期目となるアクセラレータプログラムも開始。9月中旬から募集が始まった。募集対象となるのは「社会課題をテクノロジーとビジネスで解決に導くスタートアップ」だ。アクセラレータプログラムをリードする、グーグル デベロッパーリレーションズ プログラム マネージャーの鈴木拓生氏は言う。
「グーグルではCSR的な観点ではなく、スタートアップ・エコシステムの成長が自社の価値向上に繋がるという確信と信頼に基づき、全社的かつ積極的に支援を続けてきました。現在、日本ではGoogle for Startupsがハブとなり支援事業全体を取りまとめています。リーダーシップや組織運営のスキル、経営に関するノウハウ、技術導入や人材交流、またグーグルのフラットかつ透明性の高い企業文化を根付かせていく方法など、さまざまな観点から支援をさせていただいています。
新たに始まるアクセラレータプログラムには、メンターとオープンな関係を築けるチーム、また社会を10%ではなく10倍良くしようというモチベーションを持ったスタートアップの皆様に応募いただきたいと考えています」
Google for Startups Japanアクセラレータプログラムの様子(画像提供:Google)
なお、グーグルにとって、「日本のスタートアップ・プログラムのプライオリティは世界的にも高い」とRomero氏は指摘する。実際、Google for startupsのキャンパスがあるのは、サンパウロ、ロンドン、ワルシャワ、テルアビブ、ソウル、マドリッド、そして東京の7拠点だけだ。