今回のフェンシング大会も構造は同じだった。大会運営の裏方を星槎が担い、彼らの支援のもと、フェンシングのオリンピアンたちが大会を開催した。
オリンピアンにも中心人物がいた。江村宏二氏である。江村氏は元日本代表監督で、太田雄貴選手が銀メダルを獲得した北京五輪では日本チームの監督を務めていた。日本のフェンシング界を代表する指導者で、娘の江村美咲氏は東京五輪代表の有力候補だ。
江村氏はフェンシングの名門である中央大学のOBである。バリバリの体育会系の人物をイメージなさる人も多いだろうが、お会いすると、雰囲気はまったく違う。アスリートというより、ベンチャー企業の社長という感じだ。
江村氏は、この大会に26の企業や組織からの後援を取り付けていた。これだけのスポンサーを連れてくるのだから、相当のやり手だ。彼は大分県出身だが、大分県の企業である日田天領水などにも名を連ねている。
私は東京大学運動会剣道部出身で、スポーツ関係者との付き合いもある。アマチュアの競技団体が共通して抱える問題は活動資金の確保だ。このご時世、スポンサーとなってくれる企業は簡単には見つからない。多くの競技団体は補助金を期待して、政府に接近する。
スポーツは多くのメディアで取り上げられるので、政治家も関心を持つ。政治と官僚に依存すると、時に選手そっちのけの管理体制ができあがってしまう。このあたり、医療界とよく似ている。
このような状況に反発する関係者も存在する。私が厚労省に反発を感じるのと同じだ。江村氏からは、そのような雰囲気を感じた。独立独歩でフェンシングの興隆をはかろうとして、星槎と出会った。私たちと星槎が福島でコラボしたように、江村氏と星槎は埼玉県川口市でコラボしている。
通信制教育が大きな武器になる
星槎国際高校は、埼玉県川口市のキャンパスに「スポーツアスリートコース」を開設し、フェンシングに力を入れている。星槎は、その指導を江村氏が代表を務めるエクスドリーム・スポーツに業務委託している。同社の主要なメンバーは、彼と同世代の中央大学フェンシング部のOBたちだ。
彼らには世界で戦ってきた経験とネットワークがある。フェンシングで身を立てたい高校生が全国から川口に集う。一流の指導者が教え、国内外で経験を積むのだから、成長は早い。9月26日、星槎国際高校川口3年生の小久保真旺君がフェンシング全日本選手権サーブルで優勝した。高校生男子の全日本選手権の優勝は史上初だ。小久保君は三重県出身。江村氏の指導を求めて、川口にやってきた。
実は、星槎の成功例はこれだけではない。星槎国際高校横浜2年生のスケート選手である鍵山真優君は、2019〜20年のシーズンにローザンヌユース五輪で優勝、世界ジュニア選手権2位、成人の世界4大陸選手権で3位となっている。コーチの父との二人三脚を星槎が支援している。また、星槎国際高校湘南の女子サッカー部は、2018年度に全国選手権を制した。わずか創部5年目での快挙だ。
なぜ、星槎のような新しい高校が、ここまで実績をあげるのだろうか。全ての生徒が超一流の素材というわけではないだろう。私は、星槎が学業とスポーツの両立を本気で考えているからだと思う。そして、前者に関して通信制教育は大きな武器になる。世界中、どこにいても学ぶことができるからだ。