通信制教育だからこそ伸びる子どもの可能性 コロナ禍で注目

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通信制教育について、星槎には一日の長がある。既にさまざまな分野にこのシステムを応用している。医療関係ならば、専門学校を卒業した看護師、多くは病院の管理職を対象に通信制の修士、博士課程も設置している。私も客員教授を務めている。現場経験を積んだベテラン看護師が入学して、熱心に学んでいる。通信制なので、日常業務との両立が可能だ。

問題は教員の手間が増すことだ。学生を学校に長時間、拘束できないため、効率よく、集中して指導しなければならない。一方、教育を効率化し、時間をつくることで、生徒は課外活動や日常勤務をすることが可能になる。

これは、われわれの世代の進学校が、集中力を高めて、勉強とスポーツを両立してきたことと本質的に変わらない。われわれの世代との違いは、リモート教育を活用することで、地理的な制約がなくなることだ。

指導者に人的ネットワークがあり、幾ばくかの経済的な支援があれば、若きアスリートは国内外を転戦しながら、力をつけることができる。その成果とも言えるのが、前出の小久保君や鍵山君、星槎国際高校湘南の女子サッカー部だ。

このやり方は大学教育にも応用できる。学生をキャンパスに縛りつけず、世界各地で経験を積ませ、教員はリモートで指導することも可能だ。Zoomのような便利なシステムも普及した。

人材は「教室」ではなく「現場」で育つ


実は、このやり方は、その気になれば今でもできる。自験例をご紹介しよう。私は2016年3月まで東京大学医科学研究所に在籍し、大学院生を指導していた。その1人に坪倉正治医師がいた。

彼は大学院博士課程の4年間、福島と東京を往復しながら、診療、研究に従事した。前出の星槎寮に住み込み、星槎のスタッフで「寮長」を務める尾崎達也先生と寝食を共にした。坪倉医師は「プロジェクトマネージメント、信頼関係の構築の仕方など、多くを尾崎先生から学んだ」という。彼は尾﨑先生から「多くを盗んだ」そうだ。

坪倉医師は、原発事故が福島に与えた影響を約130報の英文論文にまとめて発表した。米エキスパートスケープ社が選ぶ「地震に詳しい医師」として世界第2位にランキングしている。現在は福島県立医科大学の放射線健康管理学講座の主任講座を務め、昨年はフランス政府から原発事故対策のガイドライン改定の作業に協力を求められて、渡仏した。

彼が若くして成功したのは、福島県相馬地方という「現場」で診療・研究活動に従事したからだ。私はメール、携帯電話、フェイスブックのメッセンジャーなどを介して指導したし、被災地には星槎をはじめ、多くの優秀な人々が集っていた。人材は「教室」ではなく「現場」で育つのだ。

教育の本質は教師と生徒の交流だ。さらに、若者は異郷や異文化に触れて育つ。コロナ禍をきっかけに、リモート教育が普及した。場所の制約を受けない新しい教育のかたちは、さらに優秀な若者たちを育てるにちがいない。世界の教育は一変するだろう。われわれも変わらねばならない。

連載:現場からの医療改革
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文=上 昌広

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