国立工業高等専門学校、通称「高専」は5年間の一貫教育を行う高等教育機関だ。専門性が高い即戦力の人材を輩出する教育機関として企業から注目を集めている。しかし大企業に入った高専生のその後の活躍はニュースなどでは聞かない。一部は企業の中で活躍している人もいるが多くが組織の中の1人として組織人になってしまう例が多い。
筆者はこの高専の人材が大企業に就職する前にスタートアップに入り世界の社会課題を解決する商品やサービスをつくる機会が増えればもっと世界は豊かになるだろうと思い続けてきた。
高辻克海は、高専を卒業し農業ロボットのスタートアップに加入した「珍しい」人物だ。世界のロボットコンテストでも入賞するほどの実力をもつ彼がなぜ大企業に就職せずにスタートアップを選んだのか。高辻に話を聞いた。
スタートアップを経験してからでも大企業は遅くない
高辻は福岡県福岡市生まれ。中学生の頃に機械いじりが好きな親に買ってもらったmacでプログラミングにのめり込んでいき、北九州工業高等専門学校に入った。
入学後にロボットコンテストの存在を知り、「ロボットは人間ができない事を可能にすることができる。知識も広がるしこれは面白そうだ」と考えた。2018年には中国で開催されたロボットコンテストに高専の仲間らと挑戦しベスト8に入った。
私が地域プロデュースをしている宮崎県新富町では農業課題の解決の取り組んでおり、後継者不足の課題を解決するロボットの必要性について北九州工業高等専門学校で講演する機会があった。
この講演をきっかけに高専の卒業生らとの研究がはじまり、声かけられた高辻はロボットで実際に農業課題を解決するのは面白そうだと思いチームの1人として加入。当時専攻科1年(専攻科は5年間の高専教育を修了後にさらに高度な技術教育を習得する科)だった彼は試行錯誤の末、2020年4月から高専を休学して農業スタートアップに入る決意した。その理由として高辻は以下のように述べた。
「専攻科を休学することに迷いはありませんでした。それらの懸念よりも農業スタートアップで働く楽しさが勝りました。ロボットコンテストの経験を活かし、農家と意見交換をしながら農業課題を解決する。ロボットエンジニアとしては最高の場所だと思いました」