希望が見えた衝撃の報告書「グレーター資本主義」とは

イラスト=ピエールルイージ・ロンゴ 


1. 機会の平等 > 結果の平等


新型コロナウイルスは、米国にのしかかる大きな亀裂を露呈させた。有色人種のコミュニティが、人口に対して不釣り合いな割合で新型コロナによる感染や死、失業に苦しめられている。

自力で財をなしたアフリカ系米国人のなかでも最も裕福な男、純資産額50億ドルのロバート・スミス(投資会社ビスタ・エクイティ・パートナーズ創業者)は長らく、黒人の若者へのチャンス創出に力を注いできた。最も知られるのが2019年、モアハウス大学の卒業式で行った、同年の卒業生全員の学生ローンを帳消しにするという演説だ。

この4月に実施された、連邦政府による企業向け給与保護プログラム(Paycheck Protection Program:PPP)に、スミスは失望した。第1弾の3500億ドルの融資がわずか数日で、大企業にむさぼり尽くされ底を突いたからだ。第2弾の融資が始まるまでの3週間、スミスは解決に奔走した。問題の核は、PPPの融資資金が中小企業庁の電子システム経由で提供されていたことにあった。このシステムには大手銀行しかアクセスできなかったのだ。

「アフリカ系アメリカ人が暮らす地域の70%には銀行がない。あったとしても、彼らの約90%は個人経営であり、銀行との密な付き合いがない」とスミスは言う。彼らが使っているのは、信用組合やマイノリティ向け銀行、地域コミュニティ開発銀行だった。スミスはそれらの金融機関に、中小企業庁の電子システムにアクセスできる大手銀行とペアを組ませた。

ソフトウェア業界に対する同世代最高の投資家として知られるスミスは、自身が出資するフィンテック企業のフィナストラを使って解決策を実装した。続けて全米黒人教会会議に加盟する3万の教会に個人で嘆願書を送り、前回の融資申請から締め出されてしまった経営者に対し、彼らもこのPPPという命綱にアクセスできることを知らせてくれるよう依頼した。5月に実施されたPPPの第2弾の融資では、この方法で9万件の融資申請が処理された。


ロバート・スミス

しかし、常にスミスのような利他主義のビリオネアが現れるとは限らない。若い世代がチャンスの国として米国を体験するためには、根本的な機会の不平等を取り払う必要がある。

まずは教育だ。大学進学は下層から抜け出すための切符だが、高額な学生ローンは免れない。しかし政府の介入がなくとも、「見えざる手」はその役目を果たす。大学は今世紀を通じて、保証付きローンという枯れない資金源を甘受してきた。しかしオンライン授業が瞬く間に日常化し、ここ数十年で初めて大学は市場の圧力にさらされている。小規模大学の4分の1は最終的に統合されるか、消滅するともいわれる。

同じ力学は、米国の巨大に膨れ上がった医療制度においても働く。遠隔医療はわずか数週間で「将来の計画」から「現実」となった。現行のパラダイムがシフトするだけでなく破壊されれば、米国の中間層にとってはまたひとつ、経済的なストレスが緩和されることになる。

私たちがコロナ禍のどん底から浮上する際に鍵となるのは、競争環境を平等化するこうした現象を、制度に恒久的に焼き付けることだ。
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翻訳=木村理恵 写真=マーティン・スコラー

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 8月・9月合併号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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