新型コロナの「感染経路を絶つのは難しくない」 専門家に聞く新常識

聖路加国際病院「QIセンター」感染管理マネジャーの坂本史衣氏。


岡部:なぜ接触感染や空気感染よりもまずは飛沫感染に注意すべきなのでしょうか?

坂本:接触感染とは、ウイルスで汚染されたモノの表面に触れた手で、自分の顔の粘膜に触れることで起こる感染を指しますが、これは当初考えられていたほどは伝播に関与していないと考えられています。また、空気感染もふだん吸っている空気中に新型コロナウイルスがいるわけではなく、いわゆる3密のような状況が生じた時、そこに感染者がいたら起こる場合がありそうだと考えられています。

それに対して飛沫感染というのは、しゃべったり、歌ったり、咳やくしゃみをするときに鼻や口から出る飛沫という水分を含んだ粒子を顔に浴びたり、吸い込んだりして感染する経路を指します。飛沫の発生源から比較的近い(約2m以内)距離に誰かがいた場合、ウイルスを含む飛沫が目に入る。あるいは、人が吸い込む空気の9割ほどは鼻から入るので、鼻から吸い込んでしまったり、もちろん口を開けていれば口から入ったりします。そのようにして顔の粘膜の細胞から感染する経路が飛沫感染です。


マスクをして飛沫を飛ばさないという基本を徹底することで感染リスクは下がる(Unsplash)

新しい生活様式には、例えば、人と人が近づいて話をするときに、マスクをして飛沫を飛ばさないという行為があると思います。これは症状が出る前にウイルスを含む飛沫で感染する場合があるという新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえた対策であり、まずは近くにいる人に飛沫を飛ばさないことを徹底することがとても重要です。

太刀川:接触感染に関しては、PANDAIDでは、モノの表面でのウイルスの残存期間をわかりやすくグラフィックにし、ポスターにしたりもしました。モノの表面に存在する新型コロナウイルスについてはどのようにお考えですか。

坂本:モノの表面に感染性のあるウイルスが数時間から数日残ることを示したデータがありますが、それはあくまでも特殊な実験環境において見られる結果です。実験ではウイルスを含む液体がさまざまな材料の表面に塗り付けられ、一定の湿度と温度に保たれた無人の環境に放置されますが、こういう環境は現実世界にはほとんど存在しません。

環境やモノの表面にウイルスが残存する時間はもっと短い(おそらく数時間程度ではないか)と考えられています。また、現在感染者が巷にあふれているわけではなく、飛沫を飛ばしながら歩いているわけでもありません。

仮に鼻や口から飛沫が出ていたとしても、すべての飛沫にウイルスが含まれているわけではなく、含まれていたとしても、それが人が触れる可能性のある環境やモノの表面に落下し、感染性を失わないうちに誰かがそこに触れ、さらに顔に触れ、さらに感染が起こる確率を考えると、最終的にはその可能性は極めて低くなっていきますよね。米国疾病対策センターも、接触感染は起こり得るが、頻度は低いと述べています。3つの感染経路の中でも、とりわけ注意すべきなのはやはり飛沫感染だと考えられています。

今回は感染予防研究の専門家の立場から、これから「新しい生活様式」を続けていくなかでどのように新型コロナに向き合っていくべきなのかについての話を聞いた。次回は、感染経路に着目することで新たに見えてくる新型コロナのリスクについてや、家庭で留意すべきポイントなどについて話を聞く。

*記事内容は10月9日時点の情報に基づく。


連載:パンデミックから命をまもるために
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文=岡部 美楠子

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