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最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介

Photo by David Becker/Getty Images

ウィズコロナ、アフターコロナ時代の「これからの理想」をみんなで話そう。そして、ビジョンを再定義しよう。フォーブス ジャパン8・9月号では「新しいビジョン」入門特集を掲載。これからの時代の「ビジョン」を考えるガイドブックを目指し、台湾のデジタル担当政務委員オードリー・タンをはじめ、世界および日本の起業家、経営者、Z世代の「これからの理想」を紹介している。

特集内から早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏が大企業における「いいビジョンとは何か」をお送りする。


世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、企業を取り巻く環境も不確実性がさらに増している。答えがないことに対して、企業の決断が迫られている。常に正確なことがわからないときだからこそ、経営者も社員も「腹落ち」する企業のビジョンがあることが重要だ。
 
私が社外取締役を務めているロート製薬は、経営総合ビジョン2030「Connect for Wellbeing(コネクト・フォー・ウェルビーイング)」を掲げている。代表取締役会長の山田邦雄氏が心からそのビジョンを信じており、コロナ前からすべての人のウェルビーイング、健康と幸せを願い、事業の中心に据えていてぶれない。
 
ビジョンとは会社の意思だ。自分たちの主観的な思いなので、いいも悪いもないし、コロナのような危機が起きてもぶれないことが重要だ。コンサルに頼んでビジョンを決める企業もあるが、ビジョンは自分たちで決めなくては意味がない。世界は今後どうなると考え、自分たちは何をしたいのか。それがわからないから誰かに聞こう、というのは発想として間違っている。
 
ビジョンを他人ごとではなくて自分ごとにできているかどうかが重要で、社員が会社の方向性に腹落ちして、一緒にやりたいという意思をもっているかどうかが鍵になる。日本の企業はイノベーションが起こせず、変革から遠ざかっていると言われてきたが、それでも危機感がない企業が多かった。しかし新型コロナで多くの企業が危機感を募らせ、焦るようになってきた。
 
ビジョンが明確な会社は危機にも強い。危機にも耐えられるキャッシュをもち、景気悪化を「攻め時」と捉えて、機を見て動いている。今回のコロナを攻め時だと捉えている企業は、リーマン・ショックの際にしっかりと反省したところが多いのではないか。
 
日立製作所もそのような企業のひとつだ。「社会イノベーション」というビジョンは長年ぶれていない。巨大な企業だがガバナンスも効いており、コロナ後もいち早く在宅を前提とした勤務体系と人事制度を整えると発表した。
 
スタートアップは明確なビジョンを持つ会社が多いが、なかでもマザーハウスのビジョンはわかりやすい。代表の山口絵里子氏を私のビジネススクールの講師として呼んだ時、『モノづくり』を通じて「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というビジョンを最初に語っていたのが印象的だった。苦しい時はこのビジョンに立ち返って、その通りにできているかを判断の軸にするという。
 
ビジョンを突き詰めると、業界はあまり関係がなくなる。例えばトヨタ自動車の豊田章男CEOは決算会見で、同社の使命は「幸せを量産」することだと語った。モビリティの会社を目指すトヨタにとって、自動車という括りが意味をなさなくなっているのだろう。大変革期を迎えている自動車業界で、悩みながらやりたいことの抽象度を上げると、目指すのは人類の幸せになったのではないか。
 
ビジョンは中長期の成長にも不可欠だ。経営者はこういう世界を作りたいというビジョンを元に、中長期の投資をする。中長期の投資は短期の投資よりも安価で、大半が失敗したとしても生き残ったものが利益を生み出すようになり、次の事業の柱へと育っていくことになる。安く買って高く売るのは商売の基本だ。
 
しかし、日本の企業のように4、5年でトップが変わると中長期的なビジョンがもてず、割高な大事業を買おうとしてしまう。企業の経営者は株主に対し、中長期的なビジョンとそれに基づいた投資戦略を説明できる能力が必要だし、結果を出している経営者は正しく評価され、長く続けられるようにしなければならない。それをきちんと評価、分析できるアナリストの育成も欠かせない。


いりやま・あきえ◎早稲田大学ビジネススクール教授。1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授などを経て現職。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。

文=成相通子

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