「何のために働くのか」という旗を立てる。結果、予測できない時代のキャリアはつくられる

NPO法人ファザーリング・ジャパン関西の篠田厚志理事長

就職や転職のときは、さまざまな選択肢を目の前に並べて、「どこで働くか」「どんな仕事をするか」を決めようとする。けれど、それらは手段に過ぎない。

では働く目的は何なのだろう?きっと、お金を稼ぐためだけではないはずだ。

篠田厚志さんは、3人の子どもの父親であり、NPO法人ファザーリング・ジャパン関西の理事長。

ファザーリング・ジャパン関西は、「父親をはじめ、誰もが子育てをおもしろがる社会にしよう」という思いの元、父親に向けた子育て・家事支援プログラムの提供や、子育て世代の管理職に向けたマネジメントと子育て両立のための研修などを行っている。

篠田さんの根幹には、自身も「父親としてどうありたいか」を見つめ続けてきた経験がある。

29歳のとき、身体の異変をきっかけに、「子どもたちの心の中に何を残したいか」という問いに向き合った。

そこで見つけた働く目的が、意思決定の際の判断基準にもなった。

彼のキャリア形成を支えてきた、働く目的とは何なのかを聞いてみよう。


病気かもしれないという宣告が、人生を見つめ直すきっかけをくれた


子育てにしっかりと関わりたいという思いは、若い頃から周りと比べて強かったように思います。

それはたぶん、幼少期の切ない記憶があったから。父親は土日関係なく働いていて、家族で何かをしたりどこかに行ったりといった思い出がほとんどなかった。

だからこそ、子どもと多くの時間を一緒に過ごしたいし、一体感のある家庭を築きたいとずっと思っていました。

「土日と祝日は休めて、家族との時間をしっかり取れる仕事に就こう」

そんな軸に沿って、高校卒業後のキャリアとして選んだのは大阪府庁。入庁して10年ほどは人事部門に所属し、メインの仕事は採用でした。

忙しい部署だったので、入庁前のイメージとは違い、残業は多く、休日出勤をしなければいけないことも多々。とはいえ、やりがいのある仕事だったため、充実した日々を過ごしていました。

しかし、転機は突然に訪れたのです。29歳のときの健康診断で、「肺に影がある」という突然の宣告。当時は結婚していて、長男は3歳、長女はまだ生まれたばかり。もちろん、子どもと関わる時間はできるだけ取ってきたつもりです。

けれど、立ち止まってみてふと思いました、「自分が今死んでしまったとして、子どもの記憶に何かを残せているのだろうか」と。

幸い、精密検査の結果は良性。命に別状はありませんでした。けれど、この出来事を機に、家族とただ一緒に時間を過ごすのではなく、「子どもたちの心の中に何を残したいか」までを考えて関わるようになったのです。

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文=倉本祐美加 写真=岡本直子

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