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シネマの女は最後に微笑む


海外勤務の決まった息子フィリップに心配されても、「私にできる仕事なんかない」と消極的で、何か売れるものはないかと屋根裏を漁る始末だ。

エミリーがアメリカ人という設定なのも、比較的保守的で規範を重視したがる周囲の住人たちとは異質な者であることを示している。それに加えて内心は孤独で秘密を抱えているヒロインだからこそ、集団とは少し違った行動を取るようになり、森の中に17年も一人で暮らしているドナルド(ブレンダン・グリーソン)に遭遇する。

内心は孤独で秘密を抱えているという点において、ドナルドとエミリーは実は同類なのだが、それがじんわりと見えてくるのは中盤以降。出会った当初のドナルドは、エミリーから見れば何もかも「反対側」にいる人である。

まず旺盛な生活力。あちこちから拾ってきた資材で小屋を建て、中を居心地よくしつらえ、周囲の小さな空き地を畑にして野菜を栽培し、川で水浴びし魚を釣って食べる。面白いのは、離れたところで魚釣りの親子が見ているのを知ると、キャッチ&リリースの真似事をする場面。「自然破壊」を懸念する都会人の視線をちゃんと理解している。

そんな彼も、不動産の開発業者から度々立ち退き要請や嫌がらせをされている点では、エミリーと同様住まいに関する悩みを抱えている。

シルバーのストレートヘアに茶のセルフレーム眼鏡、白いシャツやハイネックにジャケットと細身のパンツ姿でエミリーを演じるダイアン・キートンは、昔からのダイアン・キートンのイメージそのものでとてもおしゃれだ。

一方、ドナルドを演じるブレンダン・グリーソンは、巨体にモジャモジャの頭髪に髭面、服装はくたびれているが、カール・マルクスの墓に凭れているシーンでマルクスの風貌とそっくりなのが可笑しい。

好奇心一杯のエミリーとつっけんどんで頑固なドナルド、出会った当初はギクシャクする2人だが、徐々に親しさを増していく。一緒に釣りをし、庭でごはんを食べ、語り合う中で、ドナルドの自由な生き方と暖かい人柄に魅せられていったエミリーは、彼の小屋を守りたいという使命感にかられる。

自分の目下の問題はそっちのけで「戦わなきゃ」と人のことに介入していくエミリーと、それを鬱陶しがり「君の戦いを教えてくれ」と問いかけるドナルドの会話が含蓄に富んでいる。

自然保護運動家たちの「小屋を守ろう」キャンペーンに、ドナルドが「俺があんたらの今月のテーマか? 出ていけ」と吐き捨てる場面も、なかなか皮肉が効いていて良い。

文=大野 左紀子

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