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シネマの女は最後に微笑む

エミリーを演じたダイアン・キートン(Christopher Polk / スタッフ/Getty Images)

観光需要の喚起策として経済効果が期待されているGo Toトラベル キャンペーン。今月1日から東京を発着する旅行も対象に含まれるようになり、最初の週末は旅立つ人々で賑わう羽田空港や東京駅の模様がテレビで報じられた。

「旅行に行けるのを楽しみにしていた」という人々がいる一方、「感染拡大が心配」という声もある。先の見通しがつかないなか、Go Toトラベルの利用者から感染者が出たという報道もあった。

誰だって感染は避けたいが、世の中に100%の安全はない。そして安全度・安心度が高ければ高いほど規制は厳しく、人々の行動は一律的なものとなるのが常だ。安全性の高い管理された環境は、自由や多様性の犠牲の上に成り立つとも言える。

私たちはこの先もしばらくはそれぞれが自己防衛しつつ、自分の本当に求めているものは何かを問いながら行動していくことになるのだろう。

『ロンドン、人生はじめます』(ジョエル・ホプキンス監督、2017)は、「自由を求めるか、安全を取るか」という普遍的な命題が隠されたヒューマン・コメディである。

原題となっている「Hampstead(ハムステッド)」は、ロンドン中心部の緑豊かな美しい地区。原生林の残るロンドン最大の公園ハムステッド・ヒースの周囲にはおしゃれな店の並ぶ通りもあり、昔から著名人にも愛されてきた高級住宅地として有名だ。

この作品は、ハムステッド・ヒースの森の中で人知れず暮らしていたホームレスの男性が、さまざまな人の支援によってその場所の所有権を手にし資産家になったという夢物語のような実話を元にしている。

映画ではハムステッドの高級マンションで暮らす未亡人エミリー(ダイアン・キートン)をヒロインに据え、彼女がホームレスの男性との交流を通じて自らの老後を生き直していくストーリーになっている。

内心は孤独で秘密を抱えるエミリー


わりと気楽に観られるほのぼの系のドラマといった趣の本作のポイントの1つは、エミリーがコミュニティから浮いた者だということだ。

悠々自適の一人暮らしを満喫するリッチな未亡人に見えるのは表向きで、現実の経済状況はかなり逼迫。亡き夫の残した借金の督促状や老朽化した天井に悩みながら、同じマンションの奥様集団とは気の張る上辺のつきあいをし、貯金は目減りする一方なのに近くのショップでボランティアしかしていない。

文=大野 左紀子

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