経営者の手腕で日本スポーツ界に寄与してきた半世紀|堤 義明(後編)


東京オリンピック・パラリンピックは 心を豊かに体を健康にするきっかけに


──日本スポーツ界の発展に幅広くご尽力されてきた堤さんは、今後、日本スポーツ界がさらに発展していくためには何が必要だと思われますか?

まずJOCですが、リーダーシップがあり、国際的にも顔が広い山下泰裕さんが昨年に新会長に就任したことは、非常に良かったと思っています。あとはマーケティング部門に適任の人材を持ってこられるかということだと思います。山下さんが全幅の信頼をおける方にお任せして、財政面をきちんとできれば、あとは選手強化に対しては山下さんはご専門ですから、うまくまわっていくと思います。

──日本スポーツ協会(以下、JSPO)が主要事業としている国民体育大会(以下、国体)ですが、今、その開催意義が問われています。国体をさらに発展させるためにはどうしたらいいでしょうか?

参加数を減少させて縮小化することで、自分たちで首を絞めている状態だと思います。縮小化は経費の問題が理由だというけれども、そもそもなぜ国体はすべての競技をひとつの都道府県で開催しなければいけないのでしょうか。たとえば「北海道」「東北」「関東」「東海」「北陸」「近畿」「中国」「四国」「九州」と9地域にわけるとかね。近隣の複数の府県が協力しあってやればいいわけですよ。そうすれば、経費の負担も減らすことができますし、これまで仲が悪かった地域同士が仲良くなって新たな交流が生まれて活性化につながると思いますよ。


第72国民体育大会開会式(2017年/愛媛)

──今、日体協を前身にもつJSPOとJOCを再び合併したほうがいいのではないか、という話もありますが、堤さんはどのようなお考えでしょうか?

それはとんでもない話で、まったく意味のないことです。そもそも何の為に合併の必要性があるのか、私にはまったくわかりません。JSPOとJOCとでは、それぞれ違う役割があるわけですから。JSPOにとって最大の主要事業は、国体ですから、トップアスリートを育成、強化するのではなく、幅広くスポーツを普及させることが最大の役割なんです。それに対してトップアスリートを世界へ送り出すのがJOCの務めなわけです。そういうふうにまったく異なる役割であるJSPOとJOCを、いったい何の為に合併させようとしているのかなと思いますね。そもそもJOCはIOCの下部組織なわけで、オリンピック憲章にも「各国のNOCは独立した組織でなければならない」というふうになっているんです。

──何か問題が起きた時に、日本スポーツ界として取りまとめるトップの存在が必要ということはないでしょうか。

お互いに話し合えば済むことではないかと思いますよ。というのも、JOCの理事のひとつはJSPOの会長となっていますし、逆にJSPOの理事のひとつはJOCの会長となっていて、双方の関係性が築かれているわけです。ですから何かあった時には理事会を開けば意見の交換ができることになっています。それで十分ではないかと思います。

──堤さんが注力してこられた冬季スポーツの衰退も深刻化しています。例えばアイスホッケーですが、1966年にスタートした日本アイスホッケーリーグは、チームの廃部が相次ぎ、2005年を最後に休止に追い込まれました。現在は、日本、韓国、ロシアの「アジアリーグ」が行われていますが、いずれにしても難しい状況が続いています。

2017年に中部電力の水野明久会長が日本アイスホッケー連盟の会長に就任し、基盤づくりを進めてくれていますので、まずは一安心というところですね。アイスホッケーの場合は、選手強化よりもまず先に組織の体制を強化していくことが先決です。そういう意味ではアイスホッケー選手の出身者で、なおかつ経済界でご活躍されている水野さんというすばらしい方が引き受けてくれましたので、大丈夫だと思います。

また、全日本スキー連盟も北野建設の北野貴裕氏が会長に就任後、改革を進めて非常にうまくまわっています。私はすでにスポーツ界から身を引いたわけですが、安心して見ていられるなという気持ちでいます。


コクドアイスホッケーチーム(2005年)
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聞き手=佐野慎輔 文=斉藤寿子 写真=フォート・キシモト 取材日=2020年1月31日

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