経営者の手腕で日本スポーツ界に寄与してきた半世紀|堤 義明(前編)


──そうした世界的な流れの中、長野オリンピックではアイスホッケーにはNHL(ナショナルホッケーリーグ:北米プロアイスホッケーリーグ)の選手たちがアメリカやカナダの代表として出場しました。NHLの現役選手がオリンピックに出場したのは、この時が初めてでしたから、世界的な話題となり、アイスホッケーの試合は大盛況でした。

長野オリンピックの開催が決定した後、私とサマランチ会長とでは「NHLの現役選手をオリンピックに参加させよう」という話をしていました。そこでサマランチ会長と旧知の仲であったIIHF(国際アイスホッケー連盟)のルネ・ファゼル会長にも協力してもらいまして、オリンピックのために史上初めてレギュラーシーズンを中断する「オリンピック・ブレイク」を設け、オリンピック出場が可能となったんです。

長野オリンピック組織委員会としても、NHLの選手たちも参加しやすいように条件を整えました。まずは予選リーグと決勝ラウンドで選手の入れ替えを許可するルールにしました。また、NHLの選手たちにとっては本来であればリーグ戦真っただ中の時期ですから、なるべく短期間で終えられるようにと、シード国(6チーム)と非シード国(8チーム)に分け、NHLの選手が多くいる強豪国をシードとし、決勝ラウンドから参加すれば良いようにしました。さらにギャランティが発生しない代わりに、選手とその家族の分のファーストクラスの航空チケットとホテルを用意するというVIP扱いにしました。

初めてNHLの現役選手がオリンピックに参加して結成された"ドリーム・チーム"同士の試合は予想以上の人気を博しまして、チケットは完売し、放映権料も高騰しました。これは嬉しい"誤算"。これほどすごいことになるとはまったく予想していませんでした。51億円もの黒字は、アイスホッケーのおかげでした。


長野オリンピック・アイスホッケー決勝チェコ対ロシア戦(1998年)

──長野オリンピック以降のオリンピックでは、財政的に厳しい状況が続いています。

確かにスポンサー集めには苦労しているかもしれませんね。2008年の「リーマン・ショック」(アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破産申請したのを契機に起こった世界的な金融危機)で景気が悪化したことも大きく影響したのではないでしょうか。

しかし近年、日本の景気は上向き状態にありますし、昨年JOCの新会長に就任した山下泰裕さん(全日本柔道選手権9連覇。1984年ロサンゼルスオリンピックでは柔道無差別級で金メダルを獲得。全日本柔道連盟副会長、東海大学副学長、味の素ナショナルトレーニングセンター長などを歴任)は世界的なアスリートでしたから、その山下さんがJOCの顔になったということも大きいと思いますね。山下さん自身、リーダーシップもありますし、表現力豊かで話もうまい。そういう意味では、企業からのサポートを受けて、財政的にも良いサイクルを生み出していくのではないかと期待しています。


就任会見に臨む日本オリンピック委員会山下泰裕会長(2019年)

>> 後編 へ続く

(この記事は、笹川スポーツ財団「スポーツ 歴史の検証」から転載したものです。*無断転載禁止)

連載:スポーツ×ソーシャルイノベーションで切り拓く未来

聞き手=佐野慎輔 文=斉藤寿子 写真=フォート・キシモト 取材日=2020年1月31日

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