感染症とテーブルマナー フィレンツェでの「食の学び」

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食材の扱いや調理法においても、乾物などの保存食作りが始まるなど、様々な加熱処理が生まれ、現在の西洋料理の礎が築かれました。

こうした食文化を育てたのは、当時のルネッサンスを支えていたメディチ家です。銀行家として名を挙げた大富豪が、フィレンツェの領主として、芸術だけではなく食文化も醸成しました。

同家の娘で、美食家としても知られたカトリーヌ・ド・メディシスは、のちにフランス王・アンリ二世と結婚。その際に召抱えのコックを大勢引き連れたことが、現在のフランス料理の基礎となったと言われています。

それまでのフランスは野蛮で、食事は基本的に手掴み。食卓にはなかった銀器や陶器などの食器類、カトラリー、クロスやナプキン、食事作法、調理方法などが持ち込まれたことで、現在の清潔感のある食事が貴族達の周りにも広まり、確立していきました。

つまり、西洋食文化のルーツとも言えるのがルネサンス期であり、フィレンツェの食文化である。そしてそれは、「感染予防」とも大きく関係している─。それ以外の要因も否定できませんが、当時のニューノーマルが、現在のマナーとして残っているのはとても興味深いです。

現在、新型コロナウイルスの蔓延により、ホテルやレストランなどの飲食店は感染対策として新しい衛生対応を始めています。検温、アルコール消毒、間隔を開けたテーブル配置、またはテイクアウトなどは、時の経過と共に染み付いて、新たな習慣として残っていくのではないでしょうか。


飲食店の保護シートもさまざま。これは仏デザイナーChristophe Gernigonがデザインした「Plex’Eat」(Getty Images)

ちなみに、フィレンツェの市場の2階はフードコートのようになっていて、そこには料理教室も設置されていました。僕自身も料理教室を開催していますが、食文化を正しく育んでいくには、こういう地域の取り組みも大事だなという気づきになりました。

松嶋啓介「喰い改めよ!!」
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文=松嶋啓介

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