産業医が「白衣を着ない理由」|元アマゾン産業医の相談室 #2

連載「元アマゾン産業医の相談室」サムネイルデザイン=高田尚弥


休職後の復職に重要なのは、「環境調整」


とくに難しいのは、精神面での不調の後の復帰ではないでしょうか。人間関係によるストレスが原因でしばらく会社を休み、自宅療養を行なっていた人は、同じ仕事、同じ環境で復帰するとしたらおそらく躊躇してしまうはずです。自分から「上司を代えて欲しいとか、あの人の近くでは仕事をしたくない」と申し出ることは、多くの人にはハードルが高いでしょう。もしからしたらワガママ、自分勝手などと言われてしまうかもしれません。

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でも復帰の際に、この人間関係を何とか解決しなければ、また体調を崩してしまう恐れがあります。事前に何らかの調整を行い、安心して会社に復帰してもらうことを「環境調整」と呼んでいます。

環境調整を行う場合は、2つの観点での支援が重要になります。1つ目は医学的な観点、2つ目は業務面の観点からの支援になります。多くの会社では休職から会社に復帰する場合に、「就業が可能である」ことが書かれた主治医の診断書を提出することを求めています。

ただし主治医は病気を治す専門家ですが、社員(主治医にとっての患者)の仕事の内容や、会社の就業制度などには詳しくありません。また客観的な情報を持ち得る立場でないので、社員から聴いた話をそのまま信じることが基本になります。社員が一方的にハラスメントを受けていると思い込んでいる場合など、事実とは異なる情報が主治医に伝わってしまいますが、残念ながらその情報の真偽を主治医は判断することはできません。

産業医は、主治医と会社の「渡し守」?


しかし、これを、仕方がないと諦めてしまうことはできません。そこで実は、医学と会社業務の両方への理解と知識を備えた医師が、主治医と会社の間の橋渡しを通じて、社員の健康を支えていきます。この医師のことを「産業医」といいます。

比較的大きな会社(正確には50人以上の人が働く会社)では、必ず産業医は配置されており、相談や面談をしたい場合は保健師や総務・人事部門が窓口になっていますので、まずはここに伝えるとよいと思います。

とはいえ、会社側への相談への「ハードルが高い」と感じる方も多いと思います。これは、そんな方々にこそ読んでいただきたい連載です。産業医との「付き合い方」のヒントになればと思います。

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鈴木英孝◎1993年産業医科大学卒業。米国総合エネルギー企業エクソンモービル社日本法人、アマゾンジャパン合同会社の産業医としてグローバルな産業保健活動を経て独立、現在アッシュコンサルティングサービス代表社員。専門は職域の感染症管理、健康経営、化学物質管理、喫煙対策などを含む「産業保健」。新型コロナ ウイルス対策を始めとした感染症対策、労働衛生マネジメントシステムの国内導入を進め、さらに学会活動を通じて欧米型の産業保健活動を広く国内に紹介する。

文=鈴木英孝 編集=石井節子 写真=帆足宗洋

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