産業医には緊急事態への対応も求められます。私は以前、心筋梗塞の発作で心肺停止になった社員の「救命」をした経験があります。
まだ30歳代の元気な社員さんで、「駅伝大会」の準備のため、ジョギングをしていたところ、心筋梗塞の発作に襲われたのです。昼休みに食事を取っていたところ呼ばれて、敷地内の芝生に駆けつけたところ、意識不明の重体。心肺停止だったのでただちに救命措置を施し、救急車に乗せて病院まで同行しました。
2週間後に見舞いに行った時には、言語に障害があって話ができない状態でしたが、数カ月後には、脳に軽い障害は残ったものの元気に復職されました。この様に緊急事態が発生することもあるので、オールラウンドに備える必要もあるのです。
喫煙者が10人減れば、年間250万円の節約
産業医は、企業に対して、社員の健康に関する施策を提言を行います。主には人事担当者をコンタクトポイントに提言を行います。以前、適切な分煙対策が出来ていなかった事業所に対して、喫煙室の整備と個人に対する禁煙支援を行うことで、3年間で喫煙率を15%ほど低下させることが出来ました。
Getty Images
この様に「社員の健康の責任」という難しいボールを預かる適切な組織がある企業では、産業保健活動を通じて、社員の健康のみならず企業の労働生産性へ貢献することも可能になります。喫煙による労働時間の損失は、一人当たり1年間で約25万円と言われています。喫煙者が10人減れば、年間250万円の節約になるのです。
「仕事を続ける」ことと健康
さて、忙しく、そしてふだんは元気に働いているビジネスパーソンが「健康を意識する」のはいつでしょうか?。
一つは年1回受診する健康診断の結果が送られてきた直後、もう一つは何かの原因で体調を崩した時ではないでしょうか。
前者であえて「直後」と書いたのは、基準値を外れる検査項目があったとしても、多くの人には問題となる所見は見つからないので、結果を確認したら「おしまい」だからです。
重要なのが後者。体調を崩してしまった時、例えば、入院が必要な病気やこれから一生付き合っていかなくてはならない病気の場合には、とても強く「健康を意識する機会」になるはずです。いや、意識しなければいけませんね。
Getty Images
このように大きく体調を崩した場合、仕事を続けるうえで支障が生じることがあります。例えば、心臓の手術を受けて復帰する際には、「通勤に対する不安」や「一日、8時間の勤務を続ける」のが重荷に感じるでしょう。