アメリカ歯科医師会によると、年に何度か歯科医の診察が必要といわれている米国の成人のうち、実際に受診するのは半数ほどにすぎないという。その大きな原因のひとつは、“恐怖心”だ。
昔ながらの業界に新たな息吹を注ぐことを目指す歯科治療のスタートアップ、米テンド(Tend)は、歯科治療への恐怖心を和らげることを目標に掲げている。同社は先ごろ、シリーズBラウンドで3700万ドル(約39億円)を調達。これにより、歯科医院に行くことを前向きな経験、あるいは楽しいとも言える経験に変えていきたい考えだ。
資金調達ラウンドを主導したのは、ベンチャーキャピタルのGV。そのほかタイガー・グローバル・マネジメントやグッドフレンズなども出資した。今回のラウンドにより、テンドがこれまでに調達した資金は、総額7300万ドルとなった。
イノベーションとほぼ無縁の業界
テンドの共同創業者でもあるダグ・ハドソン最高経営責任者(CEO)によれば、およそ1400億ドル規模とされる歯科業界では、「イノベーションがほとんど起きていない」。
歯科関連のスタートアップはほかにもあるが、その大半は電動歯ブラシのクイップ(Quip)や企業を主なクライアントとする移動歯科のヘンリー(Henry)など、オーラルケア(口腔衛生)に焦点を当てたものだ。
ハドソンによると、テンドは歯科医院での処置に関する考え方を変える数少ない企業のひとつ。患者は予約を入れる際、加入している保険に加え、来院時に見たいネットフリックスの番組や使って欲しい歯磨き粉のフレーバー、好みのルームフレグランスなどの情報も提供する。
また、テンドは患者の不安感を和らげるため、治療用のドリルに静音設計のものを選んでいるほか、歯科麻酔の味も改良。遠隔で歯列矯正治療を行うスマイルダイレクトクラブ(SmileDirectClub)の前CEOでもあるハドソンは、歯科医院に行くことに伴うネガティブな感情を取り除きたかったと話している。
Tendは2019年10月の創業以来、ニューヨーク市内で5カ所の歯科医院(同社は“スタジオ”と呼んでいる)を運営している。今年3月から約2カ月間は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、不要不急のサービスであるとして休業に追い込まれたが、2カ所は再開後に開業したものだという。
テンドのマシュー・フィッツジェラルド最高マーケティング責任者(CMO)は、「歯科治療は以前も今も、欠かせないサービスだ」と語る。今後はどのスタジオも、休業する予定はないという。
また、フィッツジェラルドによれば、テンドは今のところ利益を上げていないものの、2019年の売上高は500万ドルを超えている。今回の資金調達により、ボストンやワシントンD.C.などにも新たなスタジオを開設するほか、専従の歯科医も増員する計画だ。
さらに来年中には、「テンド・ブランド」の歯磨き粉やマウスウォッシュ、その他のオーラルケア製品を発売する予定だという。最終的には、消費者が毎日必ず接するブランドとなることを目指している。