ビジネス

2020.10.14

「心はプログラマだった」故・ヤフー井上雅博、15期無敗の秘訣

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・事前対応コストは、事後対応コストよりも高くつく

プログラマ出身だけに、バグのないプログラムを作ることが、ほぼ不可能であることを認識していたからか、ビジネスの設計においても、メインのプログラムを書いてからエラーの処理を考えるように、現場にも指示していたように思う。

「全部対応しようとして作るからダメなんだ。細かいところは個別に対応でいいんだよ」

一般的に事前対応コストは想定シナリオやリスクを広範囲に検討して結果が反映されるため、対応範囲が確定している事後対応コストよりも高く付く。コストには当然「時間」も含まれる。井上さんは、判断軸を資本の効率活用・経営スピードといった点に置いていたように思う。念のための補足となるが、個人情報保護や内部統制にかかわる部分では、当然、上記は適用せずに判断されていた。

・本質以外の優先順位は下げる「スルー力」

前項の事前対応コストの話にも関連するが、井上さんは、まず主目的の骨格を作り、補集合に関しては優先順位を下げて考えていたフシがある。優先順位を下げられたほうからすれば、悔しいことこの上ないが、社長の仕事は全体最適を行うことである一方、一点突破を指示することでもある。結果、「神の声」のようなステークホルダーからの要望にも、横道にブレることなく、主目的に向かってビジネスを推進することが出来たのではなかろうか。

・先に穴を掘るな。キャッシュ・コンバージョン・サイクルへの意識

新規ビジネスの審議をしていたとき、井上さんが発した言葉で印象的だったのは「先に穴を掘るな」の一言だった。要するにP/Lの前半に大きな凹み(ヘコミ)を作るな、という意味だった。

資金の回収サイクル、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)については、強烈に意識して内部の仕組みを作っていたように思う。ひいては、それが、強烈なキャッシュフローを生み出す源泉となっていたのではないだろうか。

・バリューチェーンにおける立ち位置を見極める



現在は、事業内容も関係子会社の布陣も随分と変わっているが、かつて、ヤフーの営業利益率は50%を超えていた時代があった。インターネット関連事業におけるスマイルカーブ(上流と下流の利益率が高く、中流過程は儲からない)を深く考えていたのではないかと思う。

まずはユーザーの支持を得ることで、スマイルカーブの右側、右側に行く。ヤフーのリーチ(ユーザー接触度)が圧倒的であった背景には、そんな井上さんの深い洞察があったのではないかと思うのである。


曽根 康司(そね こうじ)◎キャリアインデックス執行役員、社長室長。慶應義塾大学法学部政治学科卒。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程EMBAプログラム在学中。原宿と下北沢で時計店を経営したのち、インターネット業界に飛び込む。アマゾンジャパン、ヤフーを経て、現職。「焼肉探究集団ヤキニクエスト」メンバーでもあり、全国数百件の焼肉店を食べ歩いている。

文=曽根康司 編集=石井節子

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