──マネジメントにも編集視点は役に立ちますか?
編集者は、ライター、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイク、モデル、広告代理店、クライアント、取材対象者など、多種多様な人々と関わります。その際、各関係者との相互理解、合意形成、現場の空気作りから仕切りまでを行うので、高いファシリテーション能力が備わります。これはいわゆるリーダーシップとも言えるので、チームマネジメントにも有効です。
多数の人と関わる際には、相手との相互理解や共通言語をいかに持てるかが何より重要です。そのため編集者はあらゆる職種に関する最低限の情報は把握しておくべきです。企業に置き換えると、他の部署やクライアントの最低限のプロセスをリサーチしておくことになるでしょう。
実際のコミュニケーションで重要なのは、情感的な説明力です。ビジネスライクに用件だけを手短に話すよりも、それぞれの立場に立ち、情感を込めて伝えることで、理解力やモチベーションに大きな違いが出て、アウトプットのクオリティが高まります。オンラインの会議が増え、コミュニケーションが直線的になりがちな状況ではなおさら、その熱量が重要になってくるでしょう。
それは単に、頑張ってSNSで発信しましょうということではなく、
また、ビジネスシーンでもプライベートでも、あなたがどんな人で、どんなモノを好んで、どんな趣味があってなど、自身の情報が相手に伝わっているという点も、相互理解や信頼関係に関わり、アウトプットを左右します。日頃からSNSで発信するのもいいですし、さり気なく雑談や会議に挟みこむのも手です。伝えすぎて煙たがられないように注意が必要です。
──ニューノーマル時代に編集視点はどのように役立ちますか?
コロナ禍で人々の行動様式ががらりとかわってしまい、今後、過去のデータやフレームワークを使ったマーケティングの効用が薄れることが予想されます。不確実性きわまる時代だからこそ、ますます定性的な指標・クリエイティブ思考が求められます。
プロジェクトのスタートとゴールをいったりきたりしながら、時に俯瞰し、時に細部にまでこだわって、総合的にプロジェクトをマネージできる編集視点は、そのようなクリエイティブ思考にはうってつけです。もちろん入口や出口は定量的・論理的な思考で裏付けを取りながら、ハイブリッドで進めていくとよいでしょう。割合としては、定性が65%、定量が35%くらいの感覚でしょうか。
今後ますます情報やデータが普及していくに連れ、知識や数的根拠に論理的に組み立てられたものの価値は相対的に下がると予想されます。情報やモノ・コトは、もっと人間の身体感覚に根ざすものや、抽象度の高いアート的な側面がより重要視されるでしょう。
人により受け取る感覚や情報が違うアートのようなものが増え、人々がより多様で自由な発想をもてれば、色彩豊かで美しい社会になるのではと期待しています。そのような社会の実現において、人の心を動かす情報の体系化を行う編集視点が役にたてば本望です。
酒井新悟◎広告代理店、出版社、ITベンチャーを経て、2006年にRIDE MEDIA&DESIGN株式会社の立ち上げに副社長として参画。2018年に同社の代表取締役社長に就任。ファッション誌からグラビア、ママ雑誌、女子クリエイター向けWebサイトなど、数々のメディアを立ち上げムーブメントを起こしてきた。
連載:クリエイティブなライフスタイルの「種」
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