──リサーチで見えてこない要素を掘り起こすポイントはありますか?
論理的に考えすぎないことです。ビジネスで論理的思考は必須です。しかしながら、定量的なデータを元に論理的な結論をくだすと、ありきたりでつまらないものになる可能性があります。
そうならないために必要なのが「拡散思考」。ある事象に対して答えや正解を求めようとせず、ある程度時間をかけてどんどん思考を膨らませていきます。思考の範囲も対象の事象だけではなく、周辺部まで広く考察していきます。ある程度出切った段階で、何か関係あるものを見出し、それらを結びつけ、新しい企画へと繋げていきます。こうして既存の価値観を、何らかの違う解釈に変換していくのです。
例えば、富士フイルムが化粧品や医療品へ事業を転換し、既成概念にとらわれず飛躍していることは、このような思考プロセスを経ていると考えられます。
──プロジェクトが走り出してから、編集視点ならではの打ち手はありますか?
KPIの設定ですね。定量的な数字設定はもちろん、また定性的なものを「ある期間内に3回行う」といったように定量的なKPIにしていくことも必要でしょう。それに加えて、特に無形資産を築くブランディングを伴うプロジェクトの場合は、より定性的なKPIが重要になります。そこで有効なのが編集視点です。
編集の仕事では部数や広告の売り上げはもちろん意識しますが、「人々の心に深く刺さっているだろうか?」「感動を生み出せているだろうか?」など、数字で表しにくい人々の感情に重きをおきます。特にアンケートのコメントなどが、大事な指標になってきます。
それを応用して、例えば新規のSNSアカウント開設に伴うKPIを設定する場合であれば、フォロワー数やいいね数などの定量的なものも設定しますが、コメントにフォーカスして「人々の感情の可視化」を行います。その上で、どういうコメントを重要視するのかというKPIの設定を行います。もちろんコメントの数などの数値化できる部分は定量的にみていきます。
また編集の世界では、読者が参加できるスナップ企画や読者がモデルになるオーディション企画など、読者と密にコミュニケーションをとりながら世界観を築く方法があります。そのように顧客が参加できる機会をたくさん創出できれば、コアターゲットのインサイトを把握しやすく、感情を汲み取ったKPIの設定も容易になります。
カスタマーの消費行動を突き動かすには文脈が大事と言われて久しいですが、情報過多の時代では、文脈をたくさん用意して細かく訴求しても、消費者が「お腹いっぱい」になってしまう可能性も高い。もっとエモーショナルな部分を言語化して、KPIとして設定することが大切です。