本格スパークリング酒で世界に挑む 群馬の「水芭蕉」

永井酒造の本格スパークリング酒「MIZBASHO PURE」

昔ながらの美しい田園風景が残る、群馬県川場村。人口3500人のこの村に、日本酒の永井酒造がある。134年の歴史を持ち、現在、6代目の永井則吉氏が当主を務める。永井酒造は、輸出にも力を入れていて、「水芭蕉」は、日本国内のみならず、海外の日本酒コンクールでも、数多くの入賞暦がある、世界で愛されている日本酒ブランドだ。

今回は、永井酒造と、永井氏が開発した本格スパークリング酒のストーリーをお届けしたい。


シャンパーニュに匹敵するスパークリング酒を造りたい


9月半ば、嬉しいニュースが飛び込んできた。「MIZBASHO PURE」がフランスのトップソムリエらが選ぶ日本酒コンクール「Kura Master」(2020年度)のスパークリング部門で、最高位での入賞を果たしたのだ。

水芭蕉のスパークリング酒「ピュア」は、シャンパーニュと同様に、瓶内二次発酵で泡を作り、最終的な圧力も5気圧と高く、しっかりしたきめ細やかな泡、そしてクリアな外観が特徴だ。

泡の日本酒はこれまでも数多くあったが、ガスを注入して作るものや、にごりが残るものであった。このような本格的なスパークリング酒は、永井酒造が最初の生産者であり、その製法の特許も取得している。


永井酒造の六代目蔵元、永井則吉氏

ピュアの開発は、「シャンパーニュのような本格的な泡の酒を造りたい」という永井氏の発想から始まったが、日本酒で実現するには、技術や規則上の様々なチャレンジがあり、完成までの道のりは長かった。

永井氏はこう語る。「700回失敗して、5年かけて、ようやく納得できるものに辿りつきました」

シャンパーニュからは、製法のみならず、文化や歴史、ブランディングという観点からも影響を受けた。実に、ピュアの開発に着手してから3年、500回目の失敗をして心が折れそうになり、諦めかけていた時に、シャンパーニュ地方を訪れた。

そこで、複数のメゾンを訪問し、話を聞き、ヒントを得ただけではなく、シャンパーニュのブランドとしての 偉大さにも感銘を受けた。そして、帰国後に、さらに200回の失敗を経て、2008年に遂にピュアが完成したのだ。

ピュアは、最終的な工程で、ひとつひとつ手作業で澱引きをし、シャンパーニュでいうドサージュ(糖分追加)をせずに、コルクで栓をしている。辛口の造りだが、洋梨や白桃の華やかな果実とほのかな酒の甘みを感じ、繊細でなめらかな泡が口の中に広がる、まさにピュアな味わいだ。
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文・写真=島 悠里

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