今回は、ヤマトホールディングスが新たに立ち上げたCVCを取り上げる。
ヤマトホールディングスは2020年4月1日、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の「KURONEKO Innovation Fund」を、独立系VC大手のグローバル・ブレインと共同で立ち上げた。1号ファンドの規模は50億円である。
「投資対象は、分野・領域を定めているわけではありません」。ヤマトのCVCをリードする専務執行役員の牧浦真司はこう語る。
「アーリー、ミドル・ステージのスタートアップを中心に投資する考えですが、物流業はさまざまな産業との接点が多い業態。インフラではロボティクス、AI、データアナリシス、決済ならフィンテック、その先には量子コンピュータの世界もあります」(牧浦)
新型コロナウィルスの渦中での立ち上げ。投資実績はまだないが、牧浦に焦りはない。
「我々は投資ファンドなので、戦略的リターンではなく、あくまで投資リターンも重要視します。その意味では、20年の年始までの相場は明らかに異常で、立ち上げのタイミングを冷静に計っていました。新型コロナは想定外でしたが、想定通りに市場が調整局面に入ったので、このタイミングだと思ってスタートしました。1号ファンドがうまく回るようであれば、2号、3号と立ち上げていきたいです」
牧浦は、メリルリンチ日本証券に約20年間勤めた金融のプロフェッショナル。15年にヤマトに転じ、経営構造改革を主導してきた。自動運転の宅配実験「ロボネコヤマト」や、米ベル社と共同開発中の「空飛ぶトラック」などはテクノロジーを活用した経営構造改革の実践事例だ。今回のCVCは、そうしたアプローチを加速させ、テクノロジーによる構造改革を推進する要となるべき施策である。
同社は、今年1月に発表した経営構造改革プランで、自前主義を捨て、オープン・イノベーションに舵を切ることを表明した。目指すのは、1. 顧客・社会のニーズに正面から向き合う経営、2. データ・ドリブン経営、3. 共創により、物流のエコシステムを創出する経営、要は「運送業」から「運創業」への転換、の3点だ。そしてこの3点に共通する思想が、デジタルトランスフォーメーション(DX)である。1976年に宅急便を生み出し、宅配に革命を起こしたヤマトは、再びDXによって新たな変革を目指す。そこで重要な役割を担うのがCVCなのだ。