ビジネス

2020.10.05

NTTのドコモ完全子会社化の狙いは? 社長人事と「体質」から読み解く

NTTグループの稼ぎ頭であるNTTドコモ。なぜこのタイミングで完全子会社化となったのか (Getty Images)

このニュースには、「少々たまげた」というのが正直な感想だ。

NTTは9月29日、NTTドコモを完全子会社化すると発表。翌日には楽天モバイルが5Gのプランを公表し、菅義偉首相就任後の9月18日に飛び出した「携帯電話料金値下げ指示」に呼応し、大手通信会社は風雲急を告げるかのように動き出した。

携帯電話料金の「4割値下げ」を要求した安倍政権の「後継」である菅内閣の施策として、さらなる値下げ指示については特に驚くに値しない。NTTドコモの社員だった私としてはむしろ政府が「4割」と口にしたら、本当に4割の値下げを敢行した通信各社の動きに驚いた。

政府が「クルマは4割値引きできる」と発言し、ひと月のちに自動車の価格が4割引き下げられたら、誰もが驚くに違いない。通信事業がいくら総務省による認可事業だとはいえ、ドコモは昨年4月にいち早く値下げ断行を発表したのだから──。

よって今回、携帯電話料金の1割程度引き下げが実行されたとしても、大したお驚きではなかった。また、独自の5Gインフラには、もともと大して投資をしてこなかった楽天が、5Gの料金を廉価に設定したとしても、それは予定調和でしかない。

しかし、ドコモの完全子会社化については、鳩が豆鉄砲をくらったような驚きを感じた。そもそも楽天などの格安モバイルへの対抗策を打ち出したり、政府から1割程度の値下げ要求に呼応するために、子会社化しなければならない要因を見つけ出すことができなかったからだ。

NTTドコモ「次期社長人事」に注目


NTTが4兆2500億円もの過去最大のTOB(株式公開買い付け)資金を投入してまで、NTTドコモを完全子会社化を目指す狙いは何か。そう考え、2020年12月から就任する井伊基之次期社長の名を目にして「おや?」と思った。ドコモ出身者として見覚えがなかったからだ。ドコモは副社長2人制を取っており、そのうちひとりが持ち上がりで社長に就任するのが通例だった。また時期的にも役員の就任は株主総会が行われる6月と決まっている。

私が昨年末、社を辞して以来、まだ一度しか総会は開かれていないにも関わらず、名を知らぬ副社長がいるということはと思い、井伊次期社長の経歴に目を通す。すると今年5月までは「NTT」副社長、国際標準化担当。この6月に初めてドコモ副社長、国際担当となっている。副社長就任からわずか3カ月余りで代表取締役社長が決まるとは異例だ。

もうひとりの丸山誠治副社長は、私が採用された際の人事部長でもあり、「丸山さんにはしてやられた」など愚痴のひとつも出る。上層部とはいえ、ビジネス戦略担当部長だった私とは面識があるものだが、井伊次期社長はまったく見ず知らずの方だ。
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文=松永裕司

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