これは、それまで西山さんが両親に送っていた手紙とはまったく異質の内容だった。
(前回の記事:「娘を救いたい」父の焦り、再審を引き受けた弁護士の覚悟)
1通目は、弁護団の池田良太弁護士に「再審をやめたいので、その手続きを教えてほしい」という訴えだった。
池田弁護士は「請求人はお父さんではなく美香さんなので、美香さんから信頼されている限り解任も辞任もありません」と返信している。
「がんばった、でも限界…」
両親と井戸弁護士に宛てた手紙では、事態は緊迫していた。特に井戸弁護士には、精神的に追い詰められた状況が具体的に書いてあった。そのまま紹介する。
「このたびあれだけ支えて下さったのに、ちょうばつ(懲罰)になってしまいすみませんでした。1月16日、父が私に『井戸先生に、正義感があるのか、と言ったらびっくりしていた』と笑いながら言ってきた。私はその時けんかするわけにもいかず、がまんした。でも我まん(我慢)も限界に。1人になって考えぬいたら精神的におかしくなった。でも24日に池田先生が来てくれて話したら、私さえ信頼しているのであれば辞任も解任もしないし、気持ちいいことはないが気にしないので、美香さんはここの受刑生活を大切にしてくださいと言ってくれました。そして、がんばった、でも限界…」
続いて「全部で調査5件」とあり、懲罰の対象となった自分の問題行動を列挙している。
「1つ目、工場で働けなくなり、精神的に辛くて怠業。2つ目、頭ぐりぐりになり、とびらに頭うちつけ、保護室収容後、自傷で。3つ目、自分にイライラし、自殺しようとしたが失敗し、シャンプー、とびらになげつけ、粗暴な言動。4つ目、担当(※刑務官)にイライラ、大声で保護室収容。5つ目、その道中、イライラの原因職員にあたり(つかみかかる)暴行。だれもけがしていないのが良かった。この5件で、今はちょうばつしんさ会まちで、たぶん1ケ月ぐらい(懲罰で)座ると思います。私はもうむりです。再審することが…」
いま振り返っても、空恐ろしい場面だが、このとき、再審は「風前のともしび」だった。