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妖怪経済草双紙


宮沢賢治は「ざしき童子(ぼっこ)」の言い伝えを記しています。「紋付を着て刀を差し、袴をはいたきれいな子供」に岸辺で出会う。「どこにいたの?」と聞くと「あそこの家にいた、でももう飽きたからよその家に行く」と。「なぜ飽きたの?」子供は黙って笑うだけ。そしてこの子供が去った家は落ちぶれて、彼の転居先は大いに栄えた…

私は、世界中に座敷童がいる、実は座敷童はグローバルな妖怪なんだと思っています。1950年代には、日本に座敷童がやってきました。第二次大戦で国土が灰燼に帰したわが国でしたが、大復活、高度成長を遂げたことはご存じのとおり。閉じた経済体制、貿易保護策や固定化した為替レート、それに人為的な低金利政策、さらには霞が関主導の一種の国家資本主義が、日本を世界第二位の経済大国にまで引き上げました。

これらは、奇跡ではないかと言われたのですが、人間が気付かなかっただけで、日本には座敷童が棲みついていたのです。でも30年間も日本に暮らしていると、そろそろ飽きてきた。40年経った時、いよいよ出国、置き土産が大金融緩和によるバブル経済でした。

座敷童に出国を指示した親分、それがぬらりひょんだった。ぬらりひょんは、座敷童に新赴任地を命じます。そう、中国です。

中国で、ぬらりひょんが憑依していた人物が鄧小平さん。天安門事件で世界から非難された中国は危機感を募らせ、彼は南方巡話を敢行して国内を鼓舞しました。一緒に連れて行ったのが、赴任したての座敷童でした。その後の広東省、特に深圳の繁栄ぶりについては言うまでもありません。

座敷童が去った日本経済は何をやってもダメ。失われた20年が徒に過ぎ、とうとう民主党政権になってしまう危機。そこに東日本大震災でした。

さすがに、ぬらりひょんも日本を哀れんだのか、座敷童を東京に出張させます。同時にぬらりひょんは、持病が落ち着いた安倍晋三さんを引っ張り出しました。座敷童が誘導した経済政策がアベノミクスでした。妖力を持った三本の矢です。おかげで、日本の経済はかなり元気になった。

他方で、ぬらりひょんは米国のトランプとウマが合った。トランプは、ぬらりひょんに頼みました。「もう中国びいきはやめてくれ」。部下の座敷童も中華料理に飽きてきたし、かつての日本滞在同様30年間も過ぎたし、もう中国を離れようかなあ、と考えていたんですよ。ぬらりひょんと座敷童の経済対策の特徴は、30~40年周期で変化すること。景気循環論のクズネッツ循環とコンドラチェフ循環の間ですな。そんなこんなで、座敷童は旅支度をしていました。

そこにコロナ禍です。ぬらりひょんも座敷童も、ウィルスにまでの影響力はありません。世界的な渡航禁止で、座敷童は中国内に足止めを食っているところです。彼は、中国以外のどの国に行こうかな、ASEANかなあ、インドかなあ、欧米かなあ、アフリカかなあ、と思案しています。

菅総理にお願いがあります。是非とも、ぬらりひょんに意を通じ、座敷童を日本に永住させていただきたい。

第二次大戦後の日本と中国は、市場経済の上着を着ながら、内実はしっかりとした政府の方針とリーダーシップ、そして実行力を示しました。これが、ぬらりひょんを納得させ、座敷童を派遣してくれたのです。

これは、失われた30年間を取り戻し、さらに発展させることを意味します。安倍政権はかなりの成功を収めました。まず、それを継受するだけでも、ぬらりひょんは半分納得するでしょう。でもこれだけでは、座敷童への指令は滞在のみ。居住にまではいかないかもしれません。

ぬらりひょんは、新政権が、諸外国が瞠目するような21世紀レジームを作り上げるか否かを見極めています。各論としての規制改革、地域再生、縦割り行政の改善、デジタル化の推進は恐らくこれに適うでしょう。

でも、もう一歩が欲しい。菅総理がどんな策を繰り出してくるのか、ぬらりひょんは大きな頭を傾けて無表情な視線でじっと見極めようとしているはずです。そして彼の意に沿う政策運営であれば、座敷童にマイナンバーカードを取得させるはずです。

文=川村雄介

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