下半期「スタート日」に東証システム障害、終日売買停止の「失敗」の意味

10月1日、システム障害で全銘柄の取引が終日停止となった東京証券取引所  (Getty Images)

2020年度下半期の「スタート日」、本来であれば大きな投資が動くはずだった──。

東京証券取引所で10月1日、取引開始前に株価などの相場情報の配信システムに障害が発生し、全銘柄の取引が終日停止した。システム障害により、東証で株式の売買が終日停止したのは、1999年に取引がシステム化して以降初めて。10月2日の売買は、通常通り9時から開始すると発表された。

この日、3社が上場したものの、初値がつかない事態となった。このうちの1社「アイペットホールディングス」は、アイペット損害保険会社の純粋持株会社(完全親会社)として10月1日に設立し、同時に単独株式移転の方法で、東証マザーズ市場に上場した。広報担当者は「2年間上場に向けて準備し、金融業として事業の多角化を推進するスタート日だった。投資家の反応が見られず非常に残念。弊社も金融会社であり、安全なシステム環境を整備しており、東証の対応には信頼性を期待しています」と取材に語った。

この取引の終日停止は、国内外にどのような影響を及ぼすのだろうか。

国際金融に詳しい法政大学経営学部の平田英明教授は、「取引開始前にトラブルが起きたことでマーケットでの混乱は抑えられたが、年度の半期が切り替わる日は国内の投資家がポジション取りをするため、大きな投資が動く可能性があった」と指摘した。10月2日に通常通り取引が開始されれば、市場への短期的な影響は少ないとみられる。一方で、こんな懸念点も示した。

「中長期的な視点から見れば、日本への進出を考えており、日本のマーケットで資金調達をしたい海外企業にとっては『失敗の歴史』と捉えられ、マイナスの効果があり得るでしょう」

また、菅新政権は中国からの統制が強まる香港に代わって、日本国内に「アジアの国際金融拠点」をつくる構想の実現に意欲的だ。平田教授は「結果的には、菅政権の出鼻をくじくことになった。官邸とのコミュニケーションが取れていたのか、トラブルの事後対応について検証をしていく必要がある」と語った。

「市場運営者としての責任は、全面的に私どもにある」


なぜシステム障害は起こったのか。東証は2010年から富士通の株式売買システム「アローヘッド」を採用しており、そのうち共有ディスク装置の中のメモリが機器故障をしたとみて、該当部分の機器を取り外し、富士通の製品部で詳しい原因を調べている。サイバー攻撃など外部からの異常は検知していない。

宮原幸一郎社長は1日夕方に記者会見を開き、冒頭で「私どもの売買システムの障害により、終日売買を停止することになり、多くの市場参加者、投資家の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことに深くお詫び申し上げます」と述べた。責任の所在について問われると、宮原社長は「あくまで富士通は機器を納入するベンダーであり、市場運営者としての責任は私どもに全面的にある。原因を徹底究明した上で、経営の責任の明確化を果たしていきたい」と答えた。

株式売買システム「アローヘッド」は2019年11月に機器全体を刷新しており、これまで今回の箇所での機器故障はなかった。非常時には1号機から2号機(予備装置)への自動切り替え「フェイルオーバー」が行われるが、今回は行われなかった。テスト時にはうまく作動していたという。

最初に機器の故障を検知したのは朝7時4分。取引参加者への情報配信がうまくできていないことが分かり、その約1時間後に証券会社や投資家向けに通知。売買停止の方針を決め、8時36分に東証のホームページ上でも公表した。すでに証券会社などからの注文が入っており、システムを再起動した場合に市場に混乱が生じることが予想され、「円滑な取引再開ができず、安定的な市場運営ができない」という判断で、8時54分に売買を停止したという。

証券会社や投資家への損失補填について、東証は「徹底した原因を解明した後、万全を期してから考えたい」とした。

今後、東証に求められる姿勢はどのようなものか。平田教授は「マーケットは、蛇口をひねれば水が出てくるように、社会において当たり前の仕組みになっている。トラブルが起きた際に、第2、第3のバックアップとオペレーションがどこまでできるか、今後問われていく」と推測する。

1990年代後半から2000年代にかけてコンピューター取引のハイテク化が進むにつれて、マーケットはトラブル対応のマニュアルを作成するなどして「経験値」を積み上げてきた。平田教授は「ここ20年間、株式インフラが整備されてきた中で、今回の東証のトラブルは信頼関係を損ねる大きな痛手となった。信頼回復が急務でしょう」と語った。

文=督あかり

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