ビジネス

2020.10.13

顧客の笑顔だけを頼りに売上4757億円! 100円ショップ・ダイソーの商売道

ダイソー創業者の矢野博丈氏(写真提供:日本経営合理化協会)


谷本:実は私、こっそりダイソーの社員の方に「矢野さんはどういうときに怒られるんですか?」と聞いてみたんです。そうしたら今と同じことをおっしゃっていました。「売上が上がらなくても全然怒らないけど、ベストを目指しているか、甘えた姿勢になっていないかと怒るんです」と。

それは鈴木会長から学ばれたことなのかもしれないし、もともとお持ちの考えなのかもしれませんが、一番良い形でお客様に提供する、その姿を見せない社員を怒る、これはまさに矢野さんの経営哲学なのではと思いました。これこそが、ダイソーが成功した大きな秘訣の一つだと思います。最近はどんなものを探しているんですか?

矢野:うちが実際に何で成功したかというと、中国の工場に直接行って仕入れるようになったからなんですよ。うちの商品は100円と決めていましたが、当時インフレだったので、運賃も人件費もどんどん上がって、原価がどんどん上がってくるわけです。

一度、新潟から仕入れていたスプーンが値上げするというので、文句を言いに行ったら「嫌なら買うな。工場の暖房費も、運賃も高くなっているんだ」と怒られて。昔はメーカーさんのほうが強かったんですよね。どんどんインフレになって、もう潰れるしかないと思っていたら、我々みたいな中小企業が直接中国から商品を買えるようになった。これは幸運としか言いようがありません。

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(写真提供:日本経営合理化協会)

商売は自分の命そのもの


谷本:あっという間にお時間が来てしまいました。最後にぜひ何かメッセージ、アドバイスをお願いします。

矢野:僕はアドバイスできるような人間じゃないし、講師になること自体がおかしいんですが……。野球でもルールを知ってから覚えると面白くなるように、やっぱり商売は最前線にいて、一番困っているところで頑張るのが大事なんだと思います。うちは倉庫を作るのが一番大変でした。

昔、いろいろな証券会社がうちに来て「この商売は絶対に大成功する。でも出荷ができない。そこを何とかすれば……」と言われたんですね。それも僕が最前線にいたので、できるようになりました。自分の商売は自分の命そのもの。一生懸命やることです。一生懸命が全てじゃないですか。一生懸命やっていれば、自ずと進化します。僕も「ああでもない、こうでもない」を何百万回も試行錯誤して、今がありますから。それ以外、僕は何も分からないです。

恵まれない幸せ、仕方がない・是非もない、ありがとう・感謝。「ありがとう」と言うと、本当に物事が良い方向に転がるんですよ。何か大きな問題が起きた時、3日間くらい1日中「ありがとう、ありがとう」と言ってみてください。そんなに難しくないはずです。不思議と良いことが起きますから。僕からできるアドバイスはそれくらい。それよりダイソーの商品を買ってくださいね(笑)。


矢野博丈(やの ひろたけ)◎1943年北京生まれ。67年中央大学卒業。69年ハマチ養殖業に携わるも倒産、夜逃げ。以降、百科事典の訪問販売など転職9回。72年家庭用品の販売を目的として矢野商店を創業し、77年に大創産業として法人化。87年「100円SHOPダイソー」の展開に着手。世界28の国と地域に5500店舗を出店し、売上4757億円。これまで、ニュービジネス協議会ニュービジネス大賞「優秀賞」、通産大臣賞「貿易貢献企業賞」、ベンチャー・オブ・ザ・イヤー、財界経営者賞はじめ、数多くの経営賞を受賞。2018年12月に開催された「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2018ジャパン」にて、最終候補14名の中から日本代表に選出される。

文=筒井智子

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