ビジネス

2020.10.13

顧客の笑顔だけを頼りに売上4757億円! 100円ショップ・ダイソーの商売道

ダイソー創業者の矢野博丈氏(写真提供:日本経営合理化協会)


儲けより、お客さんの喜ぶ顔が見たい


谷本:ダイソーが感謝を大事にし、徳を積んでいく企業になるには、従業員の皆さんに矢野さんの思いが浸透している必要があると思います。どんな風に伝えているんですか?

矢野:僕は朝礼もやらないし、40年間1度も会議をしたことないんですよ。よく経営計画を作れと言われますが、僕は「そんなことはお客さんが決めることだから、分からん」と言って作りませんでした。儲けよりお客さんの喜ぶ顔が見たいんですよ。

谷本:普通の会社は、お客様の喜ぶ顔を見るには何が必要か言語化して、企画書を作るんですが、矢野さんは言語化しなくても、どうすればいいか分かっておられたわけですよね。今の時代、ニーズが多様化していて、なかなかお客様は喜ばないと思うんですが、そのインスピレーションはどうやって得ているんですか?

矢野:いや、簡単ですよ。どんどん原価を上げていけばいいだけです。100円ですから、良い商品を作るだけ。もうこれに尽きるんです。店舗が世界に5000くらいあるので、1000万個くらい作るわけです。だから原価が高い商品でも「1000万個作るので、なんぼにして」って言うと成り立つ商売。問屋さんが3割手数料を取っても、1000万個売れば1個1円でも1000万円ですから、メーカーも問屋さんも成り立つ。

結果論ですが、だから画期的な安さを実現できたんです。儲かることも必要ですが、「ありがとう、ありがとう」と言ってもらえる嬉しさは大きいですよね。最近はいつも「ありがとう」と言われるんで、夢のような商売になりました。有り難いですね。


(写真提供:日本経営合理化協会)

谷本:経営者は従業員に売上を上げるよう言いがちだと思いますが、矢野さんが従業員に発破をかける時、どんな言葉をかけるんですか?

矢野:どうでしょうね。経営計画も作らないくらいですから、「儲けろ」と言ったことはないですね。ただ、倒産して自殺しようか考えたとき、倒産するくらいなら安く売れと言ったことはあります。それが結果オーライになったわけですね。

うちが倒産するかもしれないという噂が流れたとき、イトーヨーカドーの伊藤(雅俊)オーナーから「矢野さん、大変だな。大丈夫か」って電話がかかってきたんですよ。「いや、よう分かりません」って答えたら、「経営者にとって金が足りないのは日常茶飯事だ。俺も紆余曲折があって、やっと今があるんだから、金がいるときは電話しろや。いくらでも貸してやる。返せない金なら、株でいいぞ」って。

セブンイレブンの鈴木(敏文)会長は、ある時にパンのバイヤーを呼んで「こら、うちのカレーパン、美味しくも何ともないじゃないか」と怒鳴ったそうなんです。パンのバイヤーは「お言葉ですが、カレーパンはよく売れています」と返したんですが、「馬鹿野郎! お前はセブンイレブンを潰す気か、即刻廃棄しろ!」と言って、午後3時くらいだったそうですが、全店のカレーパンを廃棄させたんです。

それまでのカレーパンはドーナツみたいに真ん中が凹んでいたんですが、半年後にリニューアルしたカレーパンは、水気があって真ん中がプクッと膨らんだものでした。「具が大きくなって、うんと美味しくなりました」とパッケージに書いてあったんですが、それから半年もしないうちに、日本中のカレーパンがみんな同じ形になりました。

鈴木会長は「今うまくいっているから、いいじゃないか」という理論ではない。美味しくないものは許せないという、あの一本筋の通った言葉はなかなか言えなませんよね。もう20年くらい前の話ですが、「あのとき、なんぼ損したんですか?」と聞いたら「7000万円だ」っておっしゃっていました。

伊藤オーナーの「返せない金なら、株でいいぞ」という言葉から分かる優しさも、鈴木会長の真剣度も本当にすごい。お二人ともよく僕を叱ってくださって、本当に有り難いですね。
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文=筒井智子

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