ビジネス

2020.10.13

顧客の笑顔だけを頼りに売上4757億円! 100円ショップ・ダイソーの商売道

ダイソー創業者の矢野博丈氏(写真提供:日本経営合理化協会)


矢野:おやじは田舎の医者で、「悪い友だちと付き合うな。働け、勉強せえ」と朝から晩まで怒鳴るように言われ続けました。嫌なおやじだと思っていたんですけどね。

地元でタクシーに乗ると、運転手さんから「あなた、栗原さんの息子さんでしょう?」って言われるんですよ(※注:矢野氏は改名している)。よく似ているからって。それで、「うちのおふくろ、お父さんに命を助けてもらったんですよ。夜中に苦しんで死ぬんじゃないかと思ったら、馬で往診に駆けつけてくれて。お金がなくて不義理をしてしまったんですが、本当に一家の命の恩人です」って言われて。同じような話を3回くらい聞いたことがあるんです。おやじは良い医者だったんでしょうね。

おやじは、往診に行って「温めてやれ」と言っても薪を蓄えていない、「もっと滋養をつけろ」と言っても卵を買うお金もないような人たちを見てきたんですね。だから自分の子どもには同じような思いをさせたくなくて、「勉強しろ、手に職をつけろ、仕事しろ、悪い友だちと付き合うな」って毎日100回くらい言うわけです。それがトラウマみたいになって、結果的によく働くことができたんだと思います。

ダイソーは「塵も積もれば山となる」なんだと思うんです。塵とは目に見えないゴミ。経済からすれば、100円って塵のようなものなわけです。それでも年商4500億円ですから。塵も積もれば山となる。千里の道も一歩から。非常にベーシックなものだと思いますよ。

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(写真提供:日本経営合理化協会)

谷本:戦後の復興から平成の失われた30年があって、日本は大きな転換期にあるような気がします。これからの100年を見据えていくうえで、特に経営者はどんなことに気をつければいいのでしょうか。さらに世界の中で日本企業が戦っていくためには、何が必要だと思われますか。

矢野:やっぱり運ですね。運って実は広辞苑にも書いていないんですよ。運がいい・悪いの定義がない。幸田露伴の『努力論』の中で「惜福の説」というものありますが、運という言葉はその中に出てくるんだそうです。

明治時代、母親と子ども2人の、とても貧乏な家庭があったと。子どもは2人ともボロボロの服を着ていて、母親があるとき一念発起して、1年がかりで2人の服を縫うんですね。兄は「お母さん、ありがとう!」と今まで着ていた服を捨てて、新しい服を着て友だちに見せびらかしに行く。一方、弟は「お母さん、ありがとうございます」と新しい服はタンスにしまって、古い服のまま家事を手伝い、全部終わってから新しい服に着替えて遊びに行く。母親は無邪気な兄が可愛いかもしれないけれど、運の神様は弟が可愛いに決まっているんです。

20世紀までは、持って生まれた運が9割の時代でした。21世紀は半分は親や先祖からもらった運で、あとの半分は自分で作っていかなきゃいけないと思うんです。ひと様のためになる、みんなが明るく元気になるなど、神様がどうやったら喜ぶか考えて、自ら運を作らないと生きていけない時代になりました。

20世紀を席巻した経営者は、儲けたい、自社を強くしたい思いが強すぎて、もしかすると21世紀には受け入れられないかもしれません。自分に対しても、子孫に対しても、運を作っていかなければならない時代に突入したのではと思うんですよね。20世紀は欲望の強い人が強かったけれど、21世紀はそれがだんだん否定されてきたように思います。
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文=筒井智子

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