そのトレンドを懸念した各銀行が、子ども向けのお小遣い管理アプリを開発している。親子でそのアプリを登録しておけば、親の口座から毎週または毎月、指定した額が自動的に子供の口座へと入金される仕組みだ。子どものほうはアプリを通じて入出金を管理し、「貯金」もできるようになっている。私たちが子どもの頃使っていた貯金箱は、今や子どものアプリの中に存在するようになった。
その年の「ひとつめのピン」をシルヴィア王妃が購入する様子は──
マネー教育は国や文化によって様々だが、スウェーデンの学校で教えるのは「みんなのためにみんなでお金を稼ぐこと」。子どもたちが人生で初めて「働いてお金を得る」経験をするのは、小学校低学年だ。学校から「マイブロンマ(五月の花)」販売プロジェクトに誘われる。
子どもたち自身が貧しい家庭の子どもたちのためにお金を集める活動で、1907年以来行われているもの。一定数の花のピンやバッジが支給され、近所の家を回ったり、スーパーの前に立ったりしてそれを販売する。子どもは売上げの10%を受け取り、残りは「マイブロンマ協会」が貧しい子どもたちの支援のために運用する。
これは国を挙げての恒例行事で、毎年のひとつめのピンをシルヴィア王妃が購入する様子がテレビのニュースで流れ、ピンを売り歩く子どもたちの姿は五月の風物詩になっている。
子供からマイブロンマを買うシルヴィア王妃。写真:Henrik Garlöv/Kungahuset.se
学校では小学校から高校までクラス全員でお金を集める機会が何度もある。終業式にクラス全員で何か楽しいことをしたい場合などは、1年間かけてみんなでお金を集めるのが一般的だ。
娘が小学校低学年のときは、行事のたびに親が持ち回りでケーキやクッキーを焼き、行事に訪れる親が数百円払ってフィーカ(ティータイム)を楽しむという仕組みだった。現在娘が通う小中一貫校では毎月1回ベークセール(家でお菓子を焼いてきて売るイベント)があり、生徒たちは給食のあとにケーキやクッキーを2個まで買うことができる。それを焼いてくるのは9年生(中学3年生)のお兄さんお姉さんたち。こうやって1年かけて集めたお金で、中学卒業記念にクラス全員で打ち上げをするのだ。
クラスで何かをするために「一人頭〇円集金します」と現金を徴収するのではなく、みんなで働いて資金を集める。もちろん売上げの多い子も少ない子もいるが、集めたお金はみんなで使う。この活動は、スウェーデンが大切にする価値観(solidaritet=連帯感)を子どものうちから養うために大きな役割を果たしている。
久山葉子(くやまようこ)◎スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト。 高校時代に1年間AFSでスウェーデンに留学。東京のスウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年に日本人家族3人でスウェーデンに移住。現地の高校で日本語を教えている。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』、訳書多数。