ビジネス

2020.10.12

夜逃げ、火事、脳梗塞。ダイソー矢野博丈の人生と成功

大創産業の創業者 矢野博丈氏(写真提供:日本経営合理化協会)


谷本:在庫の管理はどうしているんですか?

矢野:管理はみんなでやるというか、していないというか……僕、「行き当りばったり」という言葉が大好きなんですね。これは「今を一生懸命やっている」という意味なので、すごく良い言葉なんですよ。僕はずっと行き当りばったりでやってきて、運良く走り抜けられただけ。駅伝やマラソンと一緒、そんな程度だと思っています。

谷本:そんな程度のはずはないので、きっと秘訣がおありなんだと思います(笑)。ダイソーでは本当に欲しいものが揃いますよね。ちなみに今、何が一番売れ筋なんですか?

矢野:乾電池です。アルカリ乾電池は年間5000万個ほど売れます。1日に20万個の計算ですね。でも、乾電池を作った当初は「液漏れがする」とクレームの嵐でした。バイヤーからも「もう乾電池は売るのを諦めましょう」と言われました。でも毎朝「もう1日頑張ろう」と言い続けて、いまや年間5000万個の売れ筋商品になったわけです。うちの商品は100円と安いわりに、ものは悪くない。他にもよくあるクレームは「包丁が切れ過ぎて、手を切った」というもの。ある意味、ありがたい文句ですけどね(笑)。

谷本:でも、そういったクレームもきちんと受け入れ、さらに商品開発につなげているんですよね?

矢野:ええ、それを止めたら終わりですからね。1カ月後は大した差ではないかもしれませんが、10年先、20年先を考えたら、その差は膨大になります。お客様からの要望はどんどん増えていくので、切磋琢磨するのを止められない商売です。


(写真提供:日本経営合理化協会)

ダイソーを支えた3つの言葉


谷本:100円という商品で利益を出し、かつ商品開発にも注力しなければならない。普通の経営者にはなかなかできないことだと思います。

矢野:僕もこの商売を何回辞めようと思ったか分からないくらいですよ。まだ移動販売をしていた頃、買い物に来たお客様同士が「ここで買わないほうがいい。使う前に壊れたよ」「安物買いの銭失いになるよ」と大きな声でおっしゃっるんですよ。商売人として「安物買いの銭失い」と言われたのは相当きつかった。でも本当だから仕方ない。いつも下を向いていたし、これはもう辞めよう、無理だと妻と何十回も話し合いました。

でも50年ほど経つと、日経新聞社から出ている統計で「もう一度行きたい店」として、ダイソーが1位になりました。「安物買いの銭失いだ」と石を投げられていた時代からすれば、夢のようです。ここまで、半世紀かかりました。その間、1日としてゆっくり過ごした日はありません。

谷本:確かに「安かろう悪かろう」という言葉もありますが、それに対して「何くそ」とやってきたことが今のダイソークオリティにつながり、外国からの旅行者が「絶対に行きたい」と列をなす日本一の店になったわけですよね。普通の経営者であれば諦めるようなことに食らいついてこられた、その精神力の源はどこにあるんですか?
次ページ > 謙虚な発言の根幹にある哲学

文=筒井智子

ForbesBrandVoice

人気記事