コロナショック下でなぜ、人は「咀嚼音」に惹かれるのか

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咀嚼音で「脳オルガスム」を感じる人、感じない人


だが、咀嚼音をはじめとするASMRで「脳オルガスム」を感じる人が一定数いる反面、逆に不快と感じる人もいる。なぜか?

ニューロ分析をビジネスとする企業「Spark Neuro」創業者である認知科学者のスペンサー・ゲロルは、ASMRを不快と感じるむきには、ミソフォニア、すなわち音嫌悪症の可能性があると指摘する。逆に「脳オルガスム」を感じる人たちは、新しい体験にオープンであり、神経症の傾向や、誠実さや外交性、協調性を表現したがらない傾向があるという。

また、ASMRに対する感度には、「過去の経験が影響する」ようだ。子ども時代にネガティブな記憶がある人、ジャッジされることを恐れる人には、咀嚼音を含むASMRを不快に思う傾向があるという。

「アテンションエコノミー」も咀嚼音に注目


経済分野では、情報過多の時代において、多くの人々の注意関心を惹きつけるものには未曾有の価値がある、と考える「アテンションエコノミー(関心経済)」の考え方がある。

実際にASMRには「経済効果がある」と考え、期待する産業界の動きもあり、ASMRに特化したブランデッドオーディオレーベルも立ち上げられている。

イヤホンをつけて聞くかぎり「公害」にはなりえないひそやかな快楽、人々の不安をひととき鎮める新メディア「咀嚼音」。音フェチたちにとっての快楽は今後、思わぬ大きな市場に向けて開き、微かな需要を拡声してウィズコロナ経済の救世主となっていくのか──?

ミケロブビールのボトルを爪で叩きながらクラヴィッツがささやく「さあ、一緒に体験しましょう.....」の声が、「ぞわぞわ」と耳に蘇る。

文=石井節子

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