幽霊船ではない。完全自立走行で「大西洋を横断」する次代の船舶モビリティー

動き出している壮大な実験/写真:Tom Barnes for IBM

IBMが、人工知能(AI)を搭載した無人航海船舶「MAS」(Mayflower Autonomous Ship)の出航計画をいよいよ発表したとして話題となっている。

同船舶は、米コネチカット州の非営利海事研究機関「Promare」と共同開発したもの。1620年に英国から清教徒信者を乗せて大西洋を横断した「メイフラワー号」の航路を辿り、完全自律運航で北米大陸を目指すという。完全に無人化されたAI船舶が大西洋を横断するのは史上初であり、到着までの半年間、MASは航行しながらさまざまな海洋調査を担うことになる。

振り返ってみると、昨年、Promareの委員を務めるBrett Phaneufが、このプロジェクトの概要について言及していたことがある。当時は、調査中に得られたデータをベースに、航海用のソフトウェアを開発し、他の船舶の航海を支援する目的があるとしていた。また、「プラスチックによる汚染状況の測定」「動物(哺乳類)の行動習慣観察」「海水面の変化調査」「小型ドローンによる海域調査」などを目的とし、関連測定機器を開発中とも説明されていた。

MASのホームページ
MASのオームページでは船舶の現在の状況がリアルタイムで表示されている。

IBMは、MASの“頭脳”となる自動船舶識別装置(AIS)や個体認識ライダーシステム(LiDAR)をパッケージにしたシステム「PowerAI Vision」を開発した。AISは、船舶同士がGPSによる位置情報を交換するために利用する追跡システムで、一方のLiDARは自動走行車などにも積載されている障害物回避システムだ。なお、MASの設計は英国企業のWhiskerstay とMSubsが、建造はポーランドのAluship Technologyが担当した。

また、世界では自律運航船の実現を目指す「One Sea」という、フィンランド発のプロジェクトもある。2019年6月には、グローバル衛星グループInmarsat、日本郵船グループのモノはこび技術研究所(MTI)などが参加を表明している。この日本郵政グループの参加は、2025年までに日本の海域で自動運航を実現するという国土交通省のビジョンに沿ったものだ。間もなく日本においても、無人化された船舶による航海を目の当たりにできる日が来るかもしれない。

現在、自律走行車、ドローン、そして無人船舶など、陸海空を行き来するモビリティー手段の無人化が進んでいる。ただし、法律および規制、技術の問題、安全性やコストの問題など課題も各領域に山積している。いちはやく完全自動化を実現するのはどの領域か。その動向は非常に気になるところだ。

文=河 鐘基(ハ・ジョンギ)

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