NYの空洞化は本当か? 郊外に人々を分散させる「遠心力」の正体

文化、美術、音楽がバーチャルで味わえるとなれば、都市に出かける理由はなくなるだろう(Noam Galai/Getty Images)


2005年に、ニューヨークから5時間ほど北東に上がったところにあるバーモント州に行ったことがある。当時、バーリントン市やベニングトン市などはすでに観光地化しており、旧市街と言ってもギャラリーやカフェなどしか残存していなかった。買い物は、もちろん郊外のモールにある、大手のチェーン店ばかり立ち並ぶところで済ますわけだ。

産業構造としてそれらの都市に残っていたのは、観光施設(スキーなどを含むレジャー施設)やホテル、ギャラリーなど、そして都市のコアとして必要な医者、弁護士、税理・会計士、保険、教育施設(学校、サマースクール)、農林業、食品加工、物流、不動産などの残存基本産業だった。 

車で移動するしかない郊外のエリアでは、近くのモールで買い物を済ますライフスタイルで、昔ながらの都市の中の商店街はアートギャラリーやアンティークショップなどへと変貌していた。

ニューヨークのマンハッタンにも25年前まではまだ繊維工場もあり、倉庫も、水産加工業もあった。そしてリーマンショック前までは、メンテナンスなどのサービス産業のオフィスもまだあったが、あの時期を契機に一斉にマンハッタン外に移転し始めた。

これまでのニューヨーク市の経済構造は、金融、医者、弁護士、税理・会計士、保険、教育産業、物流、不動産などの残存基本産業にアートなどが加わる。スキー場のような大型リゾートや農林業はもちろんなく、食品加工業なども郊外にしかない。元来、これらの産業の上に、観光業と学生の消費が乗っかっている構造だった。

現在、ニューヨーク市では、博物館、美術館やモールも人数を制限して再開され始めたが、年末までブロードウェイも閉まっているだけでなく、コロナ禍の中心地のイメージが強く、観光客も戻ってきていない。全米で見ると、飛行機の国内線の利用客やホテル、リゾート、カジノも持ち直して来ているとはいうものの、ニューヨーク市内は往時の賑わいには程遠い。

そして、残存基本産業のうち、金融、医者、弁護士、税理・会計士、保険、教育産業などはテレワーク化が進み、金融もトレーダーは減り、AIによるアルゴトレーディングとなり省人化が進んでいる。つまりDXによってニューヨーク市における都市の産業構造が根本的に変化し始めているのだ。

チェース・マンハッタンなど大手の銀行の電話案内も、以前は電話システムでの案内で済ましていたが、最近はその電話システムの案内ガイドでさえも、携帯アプリでユーザー側に希望する処理を促すようなアプリ指向が強くなってきており、顧客側に自分で極力解決させ、省人化を図る方向に進んでいる。

学校の遠隔事業の設定も各家庭がマニュアル通りに行わなくては行けなくなるなど、さらに個人に対してテクノロジーへのリテラシーが求められる。それらについていけないと、社会生活に支障を来すようになり、私の造語だが「木偶(でく)ノロジー」になってしまうのだ。

海流のうねりに船が流されていくかのように、コロナ禍を契機として、DXの大きな潮流によって、都市部から人が郊外に押し流されているイメージが浮かんでくる。確実に、DXが都市からの遠心力として働いている。

連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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文=高橋愛一郎

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