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柴崎の取り組みの特徴は、時間と思考を丁寧に注ぐことだ。多くのアスリートがTwitterやYouTubeで情報発信するのに対し、柴崎が好んで用いるのはブログのnote。中でもnoteの有料サークル「柴崎岳の学び舎」に注力する。月額料金は100円、主な対象は子どもやその親だが、誰でも入会可能。会員限定の記事では柴崎独自の目線で上達するヒントを惜しみなく伝える。ロングパスの感覚やスルーパスのコツ、よい視野の保ち方など、実践的な技術も手加減なく披露する。

このサークルの代替できない価値は、Q&Aのスレッドにある。スレッドではサッカーの悩みについて何でも質問可能で、柴崎がそれに直接答える。例えば小学生の親からの「子どもが選手としての限界を感じている」という相談に、柴崎は10行以上にわたり丁寧に返信する。ほかにも、小学生、親、一般の人から寄せられる個人的な質問に、柴崎はすべて答える。コミュニケーションコストは決して小さくないだろう。なぜ“非効率”ともいえる発信のスタイルを貫くのか?

「SNSの発信は一方通行になりがちですが、僕は会話がしたい。そして子どもが解決できず悩んでいることに、直接答えたいんです」

体験の価値を伝えたい


「近年のサッカー界では、言語化の重要性が注目されています。サッカーのプレイを分析し、現象を言葉で説明できることが、選手としての成長につながるのだと」

そう語る柴崎自身も情報発信を通じ言語感覚を養い、noteにも感覚を言葉にする重要性を記す。しかし「サッカーの本質は、言語化できない領域にあります」と言い切る。「試合中の味方とのコミュニケーション、指導者が子どもに教える場面でも言葉は大事。しかしサッカーの試合で結果を出し、より高いレベルに到達するには、いかに“考えないか”が重要。言葉の比重を高め、頭で考えすぎると、プレイのダイナミズム、スピード感、判断のキレが失われてしまいます」

だからこそ柴崎が子どもに大切にしてほしいのは、体験だ。19年8月、サッカーをしている子どもと柴崎が二人きりでタクシーで話す企画「UDN TAXI」を実現させた真意も、体験の重要性に基づく。現在スペインでプレイする柴崎は、本誌のインタビューに先駆けて帰国したのち2週間の自主隔離を行ったというが、もしもいま、そのような制限が不要な状況であれば「この夏、子どもたちとサッカーのイベントをやりたかった」と残念そうに語った。

「一緒にボールを蹴ることで言葉では伝えられないサッカーの本質を感じてほしかった。それに選手としての成長だけでなく、人格が形成される意味でも、本当なら肌で感じる体験をたくさんしてほしい」

情勢が落ち着いたら、気持ちのよい日差しの下、青々とした芝生で柴崎と子どもたちが笑顔でサッカーを楽しむ日がくるだろう。そして柴崎とボールを追いかけた少年たちが日本代表になり、W杯で新たな歴史を刻む日が訪れるかもしれない。


しばさき・がく◎1992年生まれ。青森県出身。青森山田高校を経て2011年に鹿島アントラーズ入団、同年4月にJリーグ公式戦初出場。17年からはスペインへ活躍の舞台を移す。日本代表初選出は12年。18年のFIFAワールドカップロシア大会では日本代表の司令塔として全試合に出場。

文=田中一成 写真=平岩亨

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