トランプ VS TikTok 禁止令発動前に大統領を押しとどめた米企業の手腕

Chesnot / 寄稿者/Getty Images


この裏には、中国に対して決して譲歩しない態度をとっていたトランプ大統領の選挙対策本部内の作戦変更も事情としてあるだろう。アメリカに住んでいると、実はトランプ大統領が拳を振り上げたりする報道ばかり目立つ一方で、実際の市民社会では、それほど中国人や中国系アメリカ人と摩擦を増大させているわけではないのを実感する。

移民問題は、ほとんどメキシコを中心とした中米移民との摩擦のことを意味しており、新型コロナウイルスに関連して時々中国人が不当な暴力を受けるという報道があるにしても、全体的に中国人に向かって移民排斥を主張するような抗議活動はほぼ見られない。

また全米の大学を見渡しても、ほぼすべての大学において、留学生の圧倒的な数は中国人で占められており、若年層には中国に対してトランプ大統領が煽るような敵対意識は芽生えていない。

まだ楽観視できないTikTokの未来


TikTokを使って世界中にフォロワーをつくってきたアメリカ人の投稿者はたくさん存在し、この人たちがTikTokを排除しようとするトランプ大統領に対して、自らのSNSを通じて激しい抗議活動を執拗に繰り返している。

そこで、若年層を中心とした世代にも大統領選挙でアピールするには、TikTokを活かしながら対中強硬政策は不変だとのメッセージを出すことが得策だとトランプ陣営の選対本部が考えた節がある。もちろん、巨大なサーバー消費量となるので、オラクルは結果として2万5000人も雇用を増やすことになり、これも選挙アピールには都合がいい。

こうしてなんとか生き延びそうなTikTokだが、まだ楽観視はできない。トランプ大統領はトータルコントロール(経営の100%の掌握)だから大丈夫だと声明を発表している一方、間に入ったオラクルとウォルマートは2社合計で20%の投資だとしており、すでにトランプ大統領の発言と、企業側が合意に至ったと考えられている数字の間に乖離がある。

この齟齬は、後々、メディアのトランプ攻撃のネタにもなり得る。

さらに、これを実行に移すには、中国政府の承認も必要になってくる。TikTokのAIやアルゴリズムが、この提携によって米国側に不正に盗まれるというリスクを中国政府側は懸念しており、今度は中国政府が、「国家安全保障上のリスクを強く懸念する」と言いだす始末だ。

信頼感の失墜している両国政府の間で、今後、どのようにサイコロが振られて行くか、米国内ではますます注目が集まっている。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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